【本】金利の歴史

金利の歴史 平山 賢一  2024 中央経済グループパブリッシング 

東京海上AMチーフ・ストラテジストの語る金利の歴史。

目次

序章 金利の歴史を学ぶということ

第1章 古代史から金利の本質をひもとく
①古代の金利決定は合理的だった? メソポタミア期の大麦と銀
②ローマ時代に金融緩和も引き締めもあった? アウグストゥスのローマ期
③お金に困った時の駆け込み寺は質屋? 金利をめぐる三重構造
④なぜ金利は禁じられたのか? 旧約聖書を淵源とする宗教の徴利禁止
⑤どのようにして金利が受け入れられたのか? 公益質屋による貧者救済

第2章 ルネサンスにみる商人と宗教、そして金利
⑥ヴェニスの商人にみる高利貸しが嫌われる理由
⑦王様よりも商人の信用? メディチ家の教訓
⑧宗教改革と金利
⑨商業都市アントワープの強さと弱さ
⑩スペインの盛衰に左右されたジェノヴァ金利
⑪金融覇権の交代? オランダの低金利

第3章 大航海時代・帝国主義時代の国債・公債管理
⑫17世紀オランダ公債を支えた高貯蓄率
⑬バブル後に資金が集中した国債? 市場に優しい政府資金調達
⑭英国の徹底した国債管理政策
⑮19・20世紀の英国の成否は? 政府債務拡大の乗り越え方

第4章 覇権国家・米国の国債管理
⑯一様ではなかった米国イールドカーブ形状
⑰国債がゼロになった米国
⑱連邦準備制度創設から国債価格維持政策へ
⑲米財務省と連邦準備制度の食い違い
⑳巨額政府債務を上手く管理できるか? 洗練される国債管理政策
㉑低金利を謳歌した資金余剰国と2%下限水準割れ

第5章 日本の金利史
㉒明治維新以降の日本政府の資金調達手段
㉓明治初期の国債暴落?
㉔日中戦争以降に海外で暴落する日本国債
㉕高橋財政と国債日銀引受体制
㉖政府は国債利回りを操作する? 1940年代に実施された国債市場の安定策
㉗占領地での借入金は国債の5倍まで膨らんでいた? 金地金売却による返済
㉘日本銀行はどのように金融政策を実施してきたのか?
㉙戦時期の国債利回り抑制はいつまで続いたのか?
㉚金融財政政策の新潮流と最低金利水準

私が興味をひかれるのはやはり、オランダ。著者は、同国が覇権を失ってもなお、低金利が続いた要因として4点をあげています。

第1が倹約(貯蓄)精神。これは今なお健在です。

オランダは図書館も有料。トイレも50セント払うところすらあります。

第2が、利益の滞留。交易で蓄積した資本を、再投資しきれるほど、オランダの製造業が勃興しなかったとの見方です。オランダの製造業については、調べてみたいと思います。

イギリスと覇権を競うほどの造船業があったことは間違いありません。イングランド(絶対核家族)が直系家族のスコットランドを抱えていたように、オランダ(絶対核家族)もドイツに近づくほど直系家族地域だったわけです。ものづくりが劣勢とは思えないのですが。咸臨丸(1855)もオランダ製ですし。

むしろ、国の成り立ちから、「市民」が多かったからではないですかね。商人が世界初の株式会社を作ったはなしは、東インド会社について書きました。

オランダはカトリック・スペインとの独立戦争を80年戦うわけです。当時のマイノリティだったプロテスタントには、オランダに「自由の国」を作るしか、生きるすべがありませんでした。後のアメリカのようですね。迫害されていたユダヤ人もアムステルダムに来ました。

フランスの宣伝力がすごすぎて、民主主義を始めたのはフランス革命のようなイメージがありますが、世界初の市民社会を作ったのはオランダなのです。

豊かな商人は、株式に投資し、一般市民は債券に投資したというのが実態だったのではないでしょうか。

第3が、官民一体になった政策運営。これは、日本人のような直系家族な人のイメージするものとは違うので注意が必要です。日本ではお殿様がダントツで偉く、下々のものが制作決定に関与させていただけるというのが、官民一体だと思います。

絶対核家族なオランダは、こういう上下関係はありません。もともと国王がおらず、現在の国王は、市民に推される形で王として振る舞うようになりました。ここがイングランドとは決定的に異なります。

現在も、「オランダ人が2人集まれば3つ政党ができる」といわれるほど、徹底して議論する人たちです。組閣に9ヶ月かけるなど、全く空気を読みません。

第4が、戦争。これが大きかったでしょうね。他に生きる場所がなかったのですから、政府の戦費調達に市民は協力するしかなかったのではないでしょうか。

そんなオランダも、後に海外直接投資が増えて、国内金利が急騰しました。日本が学ぶところは多いという著者に同意です。

さらに、文化人類学的な背景も説明すると、理解が深まると思いました。このブログでは繰り返し触れていることですが、蘭英米で金融が発達した背景には絶対核家族文化があります。自由な相続が契約社会を生み、遺産をめぐる金融サービスを発達させました。

親と同居しないという文化が大航海時代を引き寄せ、資本の蓄積を可能にしました。リスクテイクもあいまって、低金利時代を作ったといえるのではないでしょうか。

Ray Dalioの分析によると、オランダが国力を最近、回復させています。

オランダが、覇権国から凋落した後に、どうやって国力を回復したか。小国の悲劇は、ウクライナを見ていれば痛いほどわかります。これからGDPランキングベスト10陥落が予測される日本は、今一度、蘭学する意味があるのではないでしょうか。

【参考】

資本主義は転換期にある。ドル基軸通貨体制はいつまで続くか?(第2回)
トランプ新政権、日銀の利上げ、日本の巨額政府債務などで不確実性が高まる中、市場の乱高下に右往左往しないために長期視点で金利や物価を考えることを提唱する『金利の世界』と『物価の歴史』の著者で、東京海上ア...
タイトルとURLをコピーしました