【本】新・経済原論

大前研一 新・経済原論
大前研一 新・経済原論
大前 研一 東洋経済新報社 2006/9

 大前さんの”The Next Global Stage“ (2005)の日本語訳。雑誌等で発表してきた論点の集大成になっています。内容もさることながら、60歳を超えて500ページの本を出すそのパワーにまず圧倒されます。


主な主張は、以下の通りです。

1.ボーダレス世界の新経済学
 ケインズとフリードマンの限界について書いています。

2.プラットフォームを押さえる重要性
 ボーダレスな世界では、PCの世界におけるWindowsのようにプラットフォームを押さえることが戦略上重要になってきます。

3.技術
 現在を乗り越える技術は、意識して作り出さなければ出てきません。
 
4.政府について 
 地域国家の重要性について、書いてあります。たしかに、90年に大連にいたっときは、ショックでしたが、その意味が15年たって、わかりました。日本の地方の将来を考えるときに、大連などから学ぶところは大きいですね。

 第一部では、世界にどのような変化が起こっているか描いており、そのひとつの例として、第2章では、ゴルバチョフ氏が取り上げています。P.51には、ソ連の歴代リーダーが、手入れの行き届いていない列車で旅行するジョークが紹介されており、秀逸でした。

 レーニン:機関手を撃ち殺せ
 スターリン:乗務員全員を撃ち殺せ
 フルシチョフ:機関手の名誉挽回
 ブレジネフ:列車が動いているふりをしよう
 ゴルバチョフ:この列車は止まったぞと叫ぶ
 
 問題に光を当てたが、解決にならなかったという意味なのですが、小泉さんは、誰に近いんでしょうね

 第3章以降では、こうした変化を受けて、経済学、政治、ビジネスがどのよう変わるか書いています。
 第4章では、地域国家を取り上げています。地域が生き残るためには、世界から投資を引き寄せる必要があるとした上で、次のように述べています。
 

しかし、本当の意思決定者が見るのは、三つからせいぜい五つの名前の書かれた短いリストだけである。どの地域も、この短いリストに残ることができなければ、まったく考慮の対象とはならない。P.207

 日本の地方にとって、耳の痛い言葉ではないでしょうか。まじめに投資環境を整えることも大切ですが、ブランドを意識することで、この最終リストに残るようにする必要があるわけです。
 第5章では、プラットフォームの話をしています。P.243では、英語を取り上げています。その通りだと思いますが、日下さんの「数年後に起きていること」P.218のコメントと読み比べると面白いです。
 第6章の中でBPOを取り上げています。P.314の「米国と海外現地従業員の給与格差」のチャートがあります。改めて見ると、ショックですね。データベース管理者は、アメリカが10000ドル/月なのに、インドは500ドル/月ですから。
 Edyについても触れていましたが、分析がちょっと古くなってしまいましたかね。ま、それほどサービスが進歩しているからしかたないですが。
 最後にどのように対応していくのかを書いているのですが、P.435にGEの例が掲載されています。組織の各所に「対抗ユニット」を設置し、新たな競合として、自社の地位を危うくするような新しい技術の可能性を検討させます。日本の企業がここまで自分を追い込めるか覚悟が問われているのでしょうか。

 では。