夫婦別姓と家族類型

旧姓の通称使用を広げる法案が検討されているようですね。

旧姓使用では「ニーズ満たされない」 政治に届かない別姓選択願う声:朝日新聞
保守的な立ち位置をとる高市早苗首相のもと、政府が旧姓の通称使用を広げる法案の調整に入ったことが明らかになった。「夫婦同姓」制度の維持が前提となる。旧姓の通称使用法制化は、選択的夫婦別姓の「阻止ツール…

エマニュエルトッドの家族類型が参考になる案件なので、ジェミニに整理してもらいました。


世界的に見ると、氏(名字)の扱いは「同氏強制」「選択的別姓」「別姓原則」「結合姓(複合姓)容認」など多岐にわたりますが、比較することで日本の特異性や各国の文化背景が見えてきます。

1 各国の夫婦別姓制度 比較表

比較項目日本
(直系家族)
アメリカ
(絶対核家族)
フランス
(平等核家族)
中国
(共同体家族)
法制度夫婦同氏が義務
(民法750条)
完全自由選択
(州法によるが原則自由)
原則別姓
(出生時の氏が固有の氏) ※慣習的に結合・同氏は可能
原則別姓
(婚姻法により各自の氏を保持)
選択肢・夫の氏
・妻の氏
※通称使用の拡大はあるが戸籍名は同一
・同氏
・別姓
・結合姓(ハイフン等)
・全く新しい氏の創作
・出生名を維持(法的原則)
・配偶者の氏を使用(通称)
・結合姓を使用(通称)
・別姓(基本)
・同氏(冠姓など、法的には可能だが稀)
実際の運用約95〜96%が夫の氏を選択。
事実婚を選ぶカップルも増加中。
以前は妻が夫の氏に変えるのが主流だったが、現在は別姓や結合姓が増加傾向。法律上の氏は一生変わらない。
社会生活では「使用姓」として夫の氏や結合姓を使う人が多い。
都市部・農村部問わず、夫婦別姓が圧倒的多数。
女性が改姓することはほぼない。
子の姓夫婦の氏(統一)
原則として親と同じ氏を名乗る。
父母の協議
父の姓、母の姓、結合姓など自由(州によるが柔軟)。
父母の協議
父、母、または父+母(順序自由)の結合姓が可能。
父母の協議
父または母の氏。
※伝統的に父の氏が圧倒的多数。
背景・特徴「戸籍制度」により家族単位で一つの氏を持つことが重視される。「個人のアイデンティティ」と「家族の一体感」のバランスを個人が選択する文化。「氏=血統」という考えが強く、法的な氏は不変。行政手続きと社会通念を分けて考える。伝統的な父系社会だが、共産党政権下の男女平等政策により別姓が定着。

1.1 日本 (Japan)

  • 特徴: 先進国の中で唯一、法律で「婚姻時に夫婦が同氏を名乗ること」を義務付けている国です。
  • 現状: 女性の社会進出に伴い、改姓によるキャリアの断絶やアイデンティティの喪失(クライシス)が問題視されています。政府は「旧姓の通称使用」を拡大していますが、パスポートや銀行口座などで限界があり、法的な「選択的夫婦別姓」の導入を求める議論が長年続いています。
  • 戸籍: 世界でも珍しい「戸籍制度」が、夫婦同氏強制の根拠の一つとなっています(一つの戸籍には一つの氏しか記載できないという運用)。

1.2 アメリカ (USA)

  • 特徴: 選択の自由度が極めて高い国です。州によって手続きは異なりますが、基本的には「自己決定権」が尊重されます。
  • トレンド: 伝統的には「ミセス・ジョン・スミス」のように夫の氏を名乗る文化が強かったですが、フェミニズム運動やキャリア志向の高まりにより、Keep Your Name(別姓)や、両方の氏をハイフンで繋ぐHyphenated Name(結合姓)が増えています。
  • ミドルネーム: 旧姓をミドルネームとして残し、ラストネームを夫の氏にするパターン(例:ヒラリー・ロダム・クリントン)も一般的です。

1.3 フランス (France)

  • 特徴: フランスでは、「人は一生、出生時の氏(Nom de famille)を持つ」というのが法原則です。結婚しても戸籍上の氏(出生名)は変わりません。
  • 使用姓 (Nom d’usage): ただし、日常生活やパスポート等の記載では「使用姓」として配偶者の氏を名乗る権利が認められています。つまり、法的には別姓ですが、社会的には同氏のように振る舞うことが可能です。
  • 子の姓: 2005年の法改正以降、父の姓、母の姓、あるいは両親の姓を並べたダブルネーム(結合姓)を選べるようになり、平等の徹底が進んでいます。

1.4 中国 (China)

  • 特徴: 伝統的にも、そして現在の法律(1950年の婚姻法以降)においても夫婦別姓が基本です。
  • 文化背景: 伝統的な中国では、氏は「父系の血統」を表すものであり、他家から嫁いできた女性が夫の氏(血統)に変わることはあり得ない(同族不婚のタブーがあるため、氏を変えると近親婚とみなされかねない)という考えがありました。

* 現代: 現在は男女平等の観点から「各自が姓名を保持する権利」が保障されています。ただし、子供の姓については、圧倒的に父親の姓を継がせるケースが多く、夫婦別姓であっても父系継承の文化は色濃く残っています。

2 家族類型からみた分析

歴史人口学者・家族人類学者のエマニュエル・トッド氏の「家族類型」を用いると、各国の氏名制度の違いが単なる法律の問題ではなく、何百年と続く「家族の無意識の価値観」に基づいていることがより深く理解できます。

トッドの分類(権威の有無×平等の有無)に基づき、ご指定の4カ国を分析・比較した表と解説を作成しました。

2.1 トッドの家族類型による氏名制度分析表

国名家族類型特徴(権威×平等)氏(名字)の本質的意味夫婦別姓・同姓への影響
日本直系家族
(Stem Family)
強い権威(親子)
不平等(長子相続)
「家(イエ)」の看板
組織の継続性の象徴
「同氏」との親和性が最強。
血縁よりも「家の存続」が優先されるため、養子や嫁も同じ看板(氏)を掲げて「家」に統合される必要がある。
アメリカ絶対核家族
(Absolute Nuclear)
権威なし(自由)
平等への無関心
「個人のラベル」
または新しいユニットの名称
「選択」との親和性が高い。
親からの独立心が強く、遺言の自由(不平等容認)があるため、氏の選択も個人の自由意志やパートナーとの契約に委ねられる。
フランス平等核家族
(Egalitarian Nuclear)
権威なし(自由)
強い平等(兄弟等分)
「個人の権利」
生まれ持った不変のID
「法的別姓」が基本。
自由と平等を重んじるため、個人のアイデンティティ(出生名)は侵されない。子の姓も平等に(父母双方向)残そうとする動きが出る。
中国共同体家族
(Community Family)
強い権威(父権)
強い平等(兄弟等分)
「血族(クラン)」の証
絶対的な父系血統
「別姓」が伝統的規範。
氏は血統(父系)を表すため、他家から来た嫁が姓を変えることは「血の偽装」となり、タブー(同姓不婚の原則)に触れる。

2.2 詳細分析:なぜその制度になったのか?

トッドの理論を用いて深掘りすると、以下のような「社会の深層構造」が見えてきます。

2.2.1 日本:直系家族(The Stem Family)

  • 構造: 親と同居し、家督を継ぐ一人の子供(長男など)に権威と財産を集中させるシステムです。
  • 分析: 日本において氏(名字)は、個人のラベルではなく「家業・家名ののれん」です。
    • 直系家族では、何よりも「家系が垂直に永続すること」が最優先されます。
    • そのため、外部から来た配偶者(妻や婿養子)は、その「家」という組織の一員になるための通過儀礼として、同じ「のれん(氏)」をくぐる(改姓する)ことが求められます。
    • 日本で選択的夫婦別姓の議論が「家族の絆(=家の枠組み)を壊す」として保守層から反発されるのは、この「氏=家の統合装置」という直系家族的な無意識が強固に残っているためと言えます。

2.2.2 アメリカ:絶対核家族(The Absolute Nuclear Family)

  • 構造: 子供は親から早期に独立し、親の権威は弱いです。兄弟間の平等ルールもなく、遺言による自由な財産処分が認められます。
  • 分析: ここでは家族は「連続するもの」ではなく、夫婦が結婚するたびにゼロから作る「新しいプロジェクト(契約)」です。
    • 伝統的にはアングロサクソンの慣習法で「一体化」のために夫の氏を名乗りましたが、絶対核家族の根底にあるのは「自由」です。
    • したがって、フェミニズム等の台頭以降は、「夫の姓でも、妻の姓でも、結合姓でも、全く新しい姓でも、自分たちで決めればいい(State is not involved)」という、極めて自由主義的な運用(完全自由選択)へと移行しました。

2.2.3 フランス:平等核家族(The Egalitarian Nuclear Family)

  • 構造: 親の権威は弱く子供は自立しますが、兄弟間の「平等」意識が非常に強いです(遺産は均分相続)。
  • 分析: 「自由」と「平等」が価値観の核です。
    • 自由(権威の否定): 親や夫の従属物ではない、自立した個としての存在。
    • 平等: 妻は夫と対等であり、固有の権利を持つ。
    • この類型では、結婚によって一方が氏を失うことは「不平等」と無意識に感じられます。フランス法で「出生時の氏が唯一の法的氏名」とされるのは、共和主義的な行政管理の側面もありますが、家族類型的な「個の対等性」の現れとも解釈できます。

2.2.4 中国:共同体家族(The Community Family)

  • 構造: 父親の強い権威のもと、結婚した息子たちが全員同居して大家族・クラン(氏族)を形成します。兄弟は平等です。
  • 分析: ここでの氏は「父系の血統タグ」そのものです。
    • 日本(直系家族)との決定的な違いは、「家(組織)」重視か、「血統」重視かです。
    • 日本の「家」は養子をとって血がつながっていなくても姓を継がせますが、中国の「共同体家族」では血がつながっていない者が姓を名乗ることは許されません。
    • 妻は夫の「共同体」に労働力として加わりますが、血統(姓)は実家の父系のもののままです。姓を変えると「夫と同じ血族」になってしまい、近親相姦のタブーに触れてしまいます。
    • つまり、中国の夫婦別姓は、現代的な男女平等思想だけでなく、「血縁絶対主義」という極めて伝統的な家族構造によって支えられています。

2.3 結論:日本が特異な理由

この分析から、日本(直系家族)が世界で最も「夫婦同氏」に固執する理由が浮かび上がります。

  • 中国は父権が強くても、血統主義ゆえに「別姓」が自然でした。
  • 欧米(核家族)は、個人の自立性が高いため「個人の氏」を維持、あるいは選択することに抵抗がありませんでした。
  • 日本だけが、「血縁」よりも「家という組織の一体感」を維持するために、「同じ名前を名乗る」という行為に過剰な意味(所属の証明)を持たせている唯一の社会(先進国において)であると言えます。

夫婦別姓の議論において、日本で反対が根強いのは、単なる慣習ではなく、この「直系家族的な組織防衛本能」が刺激されるからだとトッドの理論では説明できます。


【コメント】

日本のインテリは、平等核家族的な価値観が身についているので、フランスに惹かれるでしょう。しかし、地方の人は直系家族な生活をしているので、両者にギャップがあるのだと思います。

中国の運用は、日本人にとって意外ではないでしょうか。同じ権威主義でも、子供を平等に扱い大家族を形成する共同体家族では、妻は必ずしも夫の姓を名乗らないのです。

今回の審議が働く女性のためになればと思いますが、こういう文化的な背景を理解した上で法律になると良いと思っています。

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