技術革新と不平等の1000年史(下)ダロン・アセモグル 2023 早川書房

Power and Progress
Our Thousand-Year Struggle over Technology and Prosperity
長い歴史のなかで、第二次世界大戦後の数十年間は、比類のないものだ。一般に知られている限り、これほどまでに急速に繁栄し、その繁栄が共有された時代はほかにない。
古代ギリシャ・ローマは、近代以前に何百年にわたる成長を経験していたが、この成長ははるかに遅く、一年で0.1%~0.2%という成長率だった。
p.56
この成長を支えているのが技術革新ですが、必ずしも心地良いものばかりではありません。
(アマゾンでは)労働者は厳密でハイペースな作業手順に従わなければならず、必要以上に、長い休憩を何度もとらないように、そして求められているだけの努力を常時するように、絶えず監視されている。
p.145
AIベースのオートメーションは大して生産性を向上させられない。ましては万人の繁栄を築ける見込みなどまったくない。それでもAIが業界の大物や一流経営者を魅了して富ませるのは、これが労働者から力を奪うから。
p.166
デジタルツールは情報と反対意見を抑圧するための強力な武器として独裁体制の手中にあり、ソーシャルメディアは誤情報の温床となり、独裁的政府のみならず、極右、極左双方の過激派に操作されている。
p.174
著者は、テクノロジーの二元論を排します。
それらの二元論的な見方は、いずれも間違っている。デジタル技術は、親民主的でも反民主的でもない。メディアを監視し、情報を検閲し、自国民を抑圧する力を政府に与えるためにAI技術が開発されるとは限らない。すべてはテクノロジーが向かう方向の選択次第だ。
p.186
その選択は政治がするわけですが、AIと民主主義については、
悲劇的なのは、われわれが民主主義を最も必要としているときに、AIがそれを蝕んでいることだ。デジタル技術は、方向が根本的に変わらない限り、不平等を増大させて労働人口のかなりの部分を周縁化し続け、その傾向は西側諸国のみならず世界各地でも高じていくだろう。
p219
テクノロジーは、オートメーション、監視、データ収集、広告へ向かいすぎている。共有された繁栄を取り戻すにはテクノロジーを方向転換させる必要があり、そのために、一世紀以上前の進歩主義者たちにとって有効だった手法の応用版を活用したい。
p.235
解説曰く
『国家はなぜ衰退するか』においてはリベラル・デモクラシーと自由な市場経済の包括的制度セットへの強い信頼が表明され、楽観的なトーンが支配的だったと言えるのに対し、『自由の命運』ではこの組みあわせの実現が非常に歴史的な偶然、幸運の所産であり、再現可能性が低いかもしれない、という認識が提示され、トーンはやや悲観的になった。それに対して今回の本書では、「それぞれの国の制度的コンテクストの下で、どうすれば成長は可能になるのか」から「技術革新と成長の成果は社会の中でどのように分配されるのか/より公平な分配を実現するにはどうしたらよいのか」へと論点がさらに深められている。
p.281
どう分配するかの前に、技術革新ではありますね。
では。