
Joel Mokyr がノーベル経済学賞を受した。産業革命について私が書いてきたことを書き直してみた。
オランダに6年住んで実感するのは欧州は住みやすいということだ。気候もよく自然災害も少ない。小麦がよく採れるので、美味しいパンやパスタがあふれている。ゲルマン民族だけでなく、様々な民族が欧州にやってきたのも納得する。
結果、様々な家族類型が同居する地域になった。これほど家族類型が入り乱れている地域は欧州だけだ。
家族類型が形成する価値観は、命を賭す重みがある。自由や平等に対する考え方は、譲ることができない。2度の世界大戦が欧州発だったのは偶然ではない。
資本主義がなぜイギリスで始まったかについては、ジョエル・モキイア教授を始め、さまざまな議論がある。私の見立ては、絶対核家族+直系家族だ。
産業革命が起こるにはお金が必要だった。奴隷貿易が資本蓄積に貢献したのは否定できないだろう。親と同居しない絶対核家族は、大航海時代にうってつけだった。先祖の墓を守らなければならない直系家族は、地元を離れられない。
格差を容認する絶対核家族は、植民地支配や、奴隷貿易になんら違和感を持たなかっただろう。リスクテイクが得意なこと、金融に罪悪感がないことなども、資本蓄積に役立った。しかし、お金だけでは産業革命は起こらない。
イングランドがラッキーだったのは、直系家族なスコットランドを支配したことだ。蒸気機関を改善したジェームズ・ワットは、グラスゴー大学で研究を重ねた。世界で最初に蒸気機関車が営業運転したのはロンドンではない。イギリス北部のダラムだ。
絶対核家族なら、オランダにもデンマークにもいた。しかし、直系家族のドイツがあまりに強大で、絶対核家族が取る大きなリスクに従わなかったのではないか。イングランドは、スコットランドを支配したため、直系家族が絶対核家族の取るリスクに従った。
似たような例は、イギリス以外にも散見される。日本の絶対核家族は、薩摩と長州だ。本来なら、永遠に日が当たらないはずのマイノリティーが、イギリスと戦争することで日本史が動いた。イギリスに負けて、冷静に英国を分析していくうちに、波長が合うことがわかったのであろう。直系家族(徳川家)が気に入らないということで意気投合。あっという間に倒幕してしまった。
明治維新は、絶対核家族が直系家族に指示することで起こったミラクルだ。直系家族はもともと高い教育水準とものづくりの技術を持っていたが、絶対核家族なイノベーションが起こって、産業が勃興した。
米国デトロイト周辺には、ドイツ系の移民が多かった。ヘンリー・フォードの父親は、直系家族なアイルランド出身だった。絶対核家族なウォールストリートの資金と直系家族な五大湖周辺の技術が組み合わさってT型フォード(1908)はできたと思っている。
日本は、藩閥政治が批判され、1929年の浜口雄幸首相(長州)以後、薩長出身の首相がでなくなった。直系家族がパワーを取り戻した後、破滅に向かっていったのは皆さん御存知の通り。
1945年の敗戦で絶対核家族のアメリカに占領され、長州出身の吉田茂が首相になった。現金なもので、ここから戦後のミラクルが起こる。
直系家族なドイツも、絶対核家族に支配された西ドイツが奇跡の復興を果たし、共同体家族(ソ連)の支配を受けた東ドイツが低迷したのは興味深い。
鄧小平の経済特区により、北京(共同体家族)が、深セン(直系家族)にあれこれ指図できなくなった。絶対核家族な香港(イギリスの植民地)と両輪になってからの躍進もみなさん御存知の通り。