「兄弟都市」

 コロナは私の働き方を変えてしまいました。ロックダウンでオランダでの仕事はなくなってしまいましたが、以前住んでいたシンガポールから仕事をもらうことができました。Zoom時代ならではのできごとです。ネットがなかったら、かつて働いていたシンガポールからオファーが来ることもなかったでしょう。

 人々の働き方が変わったのであれば、姉妹都市のあり方も変わるのではないでしょうか。

たとえば、富山県では2020年、県政史上初めて民間出身の知事が誕生しました。官僚出身知事にしてみれば、姉妹都市は、文通の延長線にあります。オレゴン州とは5年に一度周年記念行事を行い、若者の交流に微笑んでいれば事なきを得ました。

 しかし、民間企業の経営者から見れば、こんなもったいないことはありません。今をときめくポートランドと縁があるのに、地元経済界は全く活かしきれていないからです。しかし、地元企業を責める訳にもいきません。能力ある若者は都会に行ってしまいました。地元の商店街はシャッター通り。新幹線の開通で富山支店を整理する企業も出てきてしまいました。

 それなら、従来にない協力で乗り切ってはどうでしょうか。もともと地方はどこも県庁をトップにしたピラミッド構造になっています。富山大学を卒業して県庁か富山市役所にの試験を受ける。それが駄目なら北陸電力、北陸銀行、北日本新聞を目指す。それぞれが海外進出する余力がないのであれば、まとめてしまってはどうかと。

 たとえば、富山県とオレゴン州は、お互いの職員が働くことができるワーキングスペースを確保する協定を結ぶ。富山県の職員はノートパソコンひとつ持ってポートランドに飛べば、オレゴン州が住居を提供してくれ、翌日州庁舎に出勤すると机とWiFiが使えるようになっている。彼は英語でオレゴン州の仕事をするのではなく、富山県の同僚が日本時刻17時まで取り組んだ仕事を、日本時刻午前2時から引き継ぎ、日本時刻午前10時に富山に投げ返します。

 これで富山県は、ほとんど追加費用をかけずに「富山県ポートランド支所」を確保できます。県民にしてみれば、これまで数日待たなければならなかった事務処理が、2倍の速さで処理される。あるいは24時間申請を受け付けてもらえるようになります。

 ポイントはこの出向者には、「富山県のためになるなら」という制限で、民間企業の仕事をしてもよいことにします。北陸銀行(バーチャル)ポートランド支店の職員として、外国為替や送金をする。北陸電力の社員として再生エネルギー関連プロジェクトに取り組む。北日本新聞の特派員として、ダイバーシティーについて記事を書く。ボーイングにヒアリングして、部品調達先を探すなど。

 するどい方は、お気づきでしょうが、逆も可なり。もしも、北陸銀行やYKKがポートランドに社員を送れるようになるなら、パブリックな仕事もしてよいことにしてもらい、「富山クラスター」を作る。こういう姉妹都市を「兄弟都市」と呼びたいと思います。

 ここまでくると、緯度で120度ごとに、兄弟都市を作りたくなりますね。富山、ストックホルム、ポートランドとか。富山で午後5時に仕事をストックホルムに送ると現地は午前9時。そこから現地時間の午後5時まで仕事をしてポートランドを呼ぶと彼の地は、午前8時という具合。

 そうすれば、眠ることなく行政サービスを提供できるようになります。たとえば消防・警察。自動運転のパトカーを夜間走らせ、ポートランドからパトロールする。ドカ雪が振ったら無人除雪車をポートランドから操作する。医療、介護でも似たようなことができそうですね。夜中の病棟を見守りロボットが巡回。異常があればポートランド駐在員が対応。現地の物理的な対応が必要なら、当直の携帯を鳴らします。労働人口が減る地方にとって、夜勤の負担を減らす意味は大きいのではないでしょうか。

 大切なのは、地元の居酒屋で、ポートランドの話題が出ること。

 「冨田さん、(ポートランドから)戻ってきたんだって?」

 「そうそう先月末ね。来月は須田さんが、ストックホルムだって」

というふうに。銀行だから、海外は、ニューヨークかロンドンでしょ?とか。メーカーだから、インドネシアかベトナム。という風にバラけていては、とても有機的なメリットが出ません。地元の市民が最も交流がある海外都市を見定め、複数の業種で取り組み、ITを活用してこそ、地方の未来が見えてこようものです。

  富山県庁に就職したら、かなりの確率でポートランドやストックホルムで働ける。となったら、県外から優秀な学生が応募してきたりしませんかね(笑)

では。