最強国の条件
Day of Empire: How Hyperpowers Rise to Global Dominance – and Why They Fall
Amy L. Chua 蔡美儿
エール大学の教授による「最強国」(hyper power)論。「最強国」とは、
軍事的、経済的な優位が突出しているあまり、世界を事実上支配するにいたった社会、国家のこと(p.3)
本書では、古代ペルシャ帝国、ローマ帝国、唐、大モンゴル帝国、スペイン、オランダ、イギリス、アメリカ。
最強国に見られる法則性は、
かつて世界史に登場した『最強国』は、世界支配にいたる上昇過程においては、少なくともそれぞれの時代の標準に照らして、極めて多元主義的かつ寛容だった。p.4
これはそうかなと思うのですが、興味深いのは、
衰退の種子は、寛容さによって播かれるのが常である。p.4
ということ。寛容さが社会内対立をうみ出してしまうんですね。
寛容ということでは、ローマ帝国の例がわかりやすいです。ローマに征服された王国で公職に就いていた者は、人種の別なく、市民権を与えれました。
ローマの歴史は、神話中の期限前753年のロムルスによる建都から、オスマン帝国によってコンスタンチノープルが征服された1453年まで、2000年以上も続いた。p.61
異文化への寛容さは、皇帝クラウディウスの言葉に現れています。
問題ないじゃないか。彼らはもう、ズボンでなしに、長寛服を着用しているのだから。p.84
アメリカの大学でいまだに繰り返される”Toga Party”見たら、皇帝は泣いて喜ぶことでしょう。
オスマン帝国、明、ムガール帝国が最強国と認定されないのに、オランダが取り上げられているのは、ちょっと意外。ドイツ人、ハインリッヒ・ベンセムの言葉(1690年代)
オランダのメイドは服装といい、振る舞いといい、女主人にに通い過ぎており、見分けがつかない
ドイツでは男達が連れ立って教会に赴き、その後から妻たちが子供の世話を焼きながらついてくるのに、オランダではその逆だ。
産業革命が起こる前からオランダ人は核家族なのでした。
大日本帝国は、非寛容さによって滅亡した国家の一つに挙げられています。一方、台湾統治を寛容政策の例としています。
第11章では、次の最強国として中国、EU、インドを検討しています。中国人民共和国は、寛容とは言えないのですが、こんなコメントも。
3000年以上の歴史を通じ、中国は多様な文化的、地理的、言語的背景を持った多数の個人を、一個の政治的単位にまとめてきた。中国文明は、実際には多様な文化の混淆によって誕生したものなのである。これはまさしく、現在EUが目標としているものと同じではないか。p.379
私の感想は2つ。ひとつは、G20時代を歴史的な視座から分析できる。アメリカの次に力をつけるのは、適材適所ができる地域だということ。
もうひとつは、家族類型の視点から興味深い。
最初に最強国になったのは、共同体家族だった。その後もローマを除けば、3つとも共同体家族。自動車、飛行機もない時代、大きは版図を支配するには、共同体家族の文化が適していた。
ローマの支配はとても興味深い。権威主義的な文化なしに、巨大な版図を1000年以上保った。
しかし、17世紀以降、最強国になったのは、絶対核家族な国だった。新大陸の発見と蒸気機関の発明により、人類のmobilityが急激に拡大。混血せずとも、個人として社会に参画できるようになり、国家として「寛容」になったからでしょうか。
20世紀になって、直系家族の国力が上がった。それは、高度な加工が冨の源泉となり、代々職人技を継ぐ直系家族に有利だった。しかし、直系家族は、Hyper Powerに一度もなっていない。
21世紀になって、BRICSが力をつけてきた。平等核家族、あるいは共同体家族である。21世紀になると急激に人口が増加、資源の相対価値があがった。技術よりも資源を持つ国が力を持ち始めている。資源を持つ国=土地が広い国。共同体家族の国が勢いを持つ。
同様考え方を現代の「国」であるグローバル企業に当てはめたらどうなるか。最強国ならぬ最強企業になる会社とは?
トヨタのような直系家族な会社は、あくまで技術が生かせる分野からはみ出ない。取締役が日本人男子ばかりという批判は無視する。直系家族のノリを止めた時に最強でなくなる。SONYをみよ。
絶対核家族なMicrosoftやGoogleは、土地に縛られない事業に特化。優秀な人材を世界中から登用するが、融合は目指さない、あくまで個人での参加。電力参入は凶。
ゴーン日産は、平等核家族な経営。自動車界のローマ帝国。買収されても、市民権が与えられる。ここは、ひとつの文化を作りにいってよい。
資源・エネルギー会社は、共同体家族な国の国家資本主義が席巻する。チンギスハンが攻めて来たら、戦うよりも逃げた方がよい。
さて、結果は如何に?