【本】賃金とは何か

賃金とは何か 職務給の蹉跌と所属給の呪縛 濱口 桂一郎  (朝日新書) 2024

労働省OBによる賃金論。東洋経済新報社「2024年ベスト経済書・経営書」、第2位


目次

序章 雇用システム論の基礎の基礎

第1部 賃金の決め方

 戦前期の賃金制度

 戦時期の賃金制度

 戦後期の賃金制度

 高度成長期の賃金制度

 安定成長期の賃金制度

 低成長期の賃金制度

第2部 賃金の上げ方

 船員という例外

 「ベースアップ」の誕生

 ベースアップに対抗する「定期昇給」の登場

 春闘の展開と生産性基準原理

 企業主義時代の賃金

 ベアロゼと定昇堅持の時代

 官製春闘の時代

第3部 賃金の支え方

 最低賃金制の確立

 最低賃金制の展開

 最低賃金類似の諸制度

終章 なぜ日本の賃金は上がらないのか


新書という大きさの中で、賃金制度の歴史を振り返り、現在の問題点をあぶりだしています。

【AIの解説】

本書は、日本の賃金制度を歴史的観点から深く掘り下げた労働政策研究の専門書として高く評価されています。

時代を捉えた政策的タイミング

本書は、岸田政権下で「新しい資本主義」の旗印のもと、職務給導入が政策として進められている時期に出版されました。岸田首相は2022年9月のニューヨーク証券取引所でのスピーチで「メンバーシップに基づく年功的な職能給の仕組みを、個々の企業の実情に応じて、ジョブ型の職務給中心の日本に合ったシステムに見直す」と述べ、2023年1月の施政方針演説でも職務給への移行を「企業の成長のためにも急務」と強調しています1。このような政策論議が活発な時期に、賃金制度に関する歴史的分析と今後の展望を示した本書は、経営者や人事担当者にとって極めて時宜を得た内容だったと考えられます。

歴史的視点と現代への示唆

本書の特徴は、明治時代から現代に至る150年間の賃金制度の変遷を丁寧に描き出している点です。特に注目すべきは、現在の岸田政権が推進する職務給への移行政策が、実は60年前の池田勇人政権時代とほぼ同じ政策であることを指摘している点です。1963年1月、池田首相は施政方針演説で「従来の年功序列賃金にとらわれることなく、勤労者の職務、能力に応ずる賃金制度の活用をはかる」と述べており、岸田首相の「従来の年功賃金から、職務に応じてスキルが適正に評価され、賃上げに反映される日本型の職務給へ移行する」という言葉と驚くほど似ています。

理論と実践のバランス

金子良事氏(阪南大学経済学部准教授)は、本書が理論モデルで単純化せず、歴史的資料を丁寧に紹介している点を評価しています。「理論モデルで捉えることには功罪があって、概観しやすい反面、細部の観察がおろそかになるリスクを抱えている」と述べつつ、本書は「基本的には資料そのものの紹介に重きを置き、理論的に丸めるようなことはしていない」と高く評価しています2

政策的含意の深さ

特に注目すべき点として、本書の第3部で扱われている最低賃金制度に関する分析があります。金子氏は「第3部の最低賃金における業者間協定、地域、公契約は重要である」と指摘し、「メンバーシップ型の企業に閉じてしまいがちな雇用社会のなかで、それを超える可能性があるのがこの3点である」と評しています。マクロ経済政策としての賃上げの重要性を認めつつも、「賃金に関する政策としての可能性は最低賃金にある」という視点は、経営者にとって重要な示唆となります。

「メンバーシップ型」と「ジョブ型」概念の創始者

濱口氏は「ジョブ型雇用」という言葉の生みの親として知られており、これと対をなす「メンバーシップ型雇用」の概念とともに日本の雇用政策議論に大きな影響を与えてきました。本書でもこれらの概念を用いて見取り図を描いており、日本の雇用システムと賃金制度を理解するための枠組みを提供しています。

経営実務への示唆

本書は単なる歴史書ではなく、現代の企業経営や人事政策に対する重要な示唆を含んでいます。例えば、「ベースアップと定期昇給の違い」といった実務的な問題についても詳しく説明されており、人事担当者が実務上直面する課題の理解に役立つ内容となっています。

濱口氏の『賃金とは何か』は、日本の賃金制度の歴史と構造を理解するための重要な書籍として、そして現在進行形の政策議論に対する深い洞察を提供する書籍として、経営者や人事担当者から高く評価され、ベスト経営書2位に選ばれたものと考えられます。


日本の賃金制度について理解が深まるのは、海外勤務の時かもしれません。特に絶対核家族地域では、雇用契約は文字通り1通ごとの作成。転職も頻繁にあるので、前任者の職務をいかに後任に引き継ぎながら、全体の人件費を下げるかが、マネージャーの腕の見せどころになったりします。

そういう意味では日本の賃金テーブルは、同じ事業のまま会社が大きくなっていく、自動車産業のような業種に最適化されたものなのでしょう。

より多くの人事担当者が海外勤務を経験し、賃金制度を立体的に理解してくれるといいですね。

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