盛力 健児ほか 宝島社 2015/12
山口組が分裂した2015年8月から2ヶ月間のインタビューをまとめた本。経営者がこの本を手にする理由は2つ。ひとつは、リスク管理。現在の裏社会の状況がわかります。もう一つは、日本人の権力闘争の例として。先日ご紹介した『影の権力者 内閣官房長官菅義偉』、『シャープ崩壊』と比較すると興味深いものがあります。
6人のライターが、分担して執筆しており、一部、重複もあり、どの章からも読めます。さすが、宝島クオリティ、圧倒的な描写で、シンガポールにいながら、日本の状況がよくわかります。
第9章は、山口組100年の歴史。
淡路島の漁師だった山口春吉初代が、漁師生活に見切りをつけ、妻子を連れて神戸に移り住むのは、1906年、春吉初代が25歳の時だった。日露戦争の直後とあって神戸港は貿易量が増大、仕事はあふれるほどあった。p.259
その後の前項展開は、ダイエーを見ているようでもあります。
現在が6代目ですから、平均在任期間は、18年。江戸時代(265年)÷15代将軍=18年と同じ。GEは137年の歴史で、CEO9人なので、平均在任期間は、15年。
家族類型的に興味深いのは、直系家族的な組織運営なのに、血統でなく、ある種の実力主義で「長男」を見立てていること。ここは、徳川家と決定的に違います。
第1章~第4章までは、盃と大義をめぐる双方の主張を描いています。上部構造の話ではありますが、その原因が、高齢化や暴排条例による収入の減少といった下部構造にあるのが理解できます。
日本全国、どの組織も同様なのだが、とにかく平均年齢が上がっている。会長・総長や幹部ともなれば60代、70代が普通なのだ。p.228
やり玉に上がっているのが「弘道会方式」 規則の徹底、人事、肩書が増える、上納金の引き上げなど。上納金をノルマに置き換えれば、どこかの大企業とソックリ。
こうした方式が反感を買っているのですが、ゴシップのような細かなことが、組員の反感を買っています。たとえば、親分が豪邸立てたとか、贅沢しているとか。そういえば、最近都知事もを本業よりそうしたことで反感買ってますね。
第8章は、芸能界・格闘技界との関係。こうして100年の歴史を理解すると、高倉健が田岡組長を演じたり、美空ひばりが紅白卒業したり、島田紳助が芸能界引退したりしたことが理解できます。格闘技は、力道山からプライドまでつながっていたのですね。
第6章では、警察と国税の話が出てきます。福岡県警が、工藤会を所得税法違反で捜査したことが書かれています。税金というお金の流れが、暴力団に大きな影響を与える様子は、政治の世界に似ていると感じます。警察、国税の関係を読んでいると、パナマ文書の破壊力が大きくなる理由もわかる気がしてきます。