日本の経済政策

日本の経済政策-「失われた30年」をいかに克服するか
小林-慶一郎 2024 中公新書-2786

通産省OBの経済政策提言。むしろ、平成の経済政策史として参考になりました。

AIによる要約

過去30年間の経済政策分析

バブル崩壊から現在に至るまでの日本の経済政策を経済学の観点から体系的に分析しています。著者は「失われた30年」と呼ばれる長期停滞の原因と歴史的経緯を詳細に検証し、なぜ日本経済がこれほど長く低迷を続けたのかを明らかにしています。マクロ経済学の理論的枠組みを用いて、この期間に実施された様々な政策の効果と限界を学術的に考察しています。

1990年代初頭の不況対策と教訓

90年代初頭の経済危機への政策対応を詳細に振り返り、不良債権処理の遅れが日本経済に与えた影響を分析しています。著者は不良債権処理の先送りが人的資本の形成不全と企業間分業の劣化を招き、これが長期停滞の根本原因になったと指摘しています。政策当局の縦割り主義、特に金融行政が不良債権のマクロ経済的影響を十分に考慮しなかったことが、問題を更に深刻化させたと論じています。

アベノミクスと岸田内閣の経済政策評価

アベノミクスの成果と限界について客観的な評価を提示し、岸田内閣の「新しい資本主義」などの経済財政政策の取り組みを検討しています。特に、金融緩和政策がインフレ期待に与えた影響とその実効性について分析しています。長期の金融緩和が経済の新陳代謝を阻害し、成長力を損なった可能性についても言及しており、経済成長と分配のバランスについての見解を示しています。

日本の構造的課題と経済政策

人口減少や高齢化といった日本が直面する構造的課題に対する経済政策のあり方を議論しています。これらの人口動態の変化が経済に与える影響を分析し、持続可能な経済システムを構築するための政策アプローチを提案しています。著者は世代間問題の考察にも力を入れており、将来世代への負担と現在の政策決定のバランスについても論じています。

デフレ脱却と持続的成長への提言

デフレからの脱却と持続的な経済成長を実現するための具体的な政策提言を行っています。著者は「再帰的思考」(他者の思考について考えること)の重要性を強調し、政策当局者が「この政策を実行したら国民や市場はどう考えて行動するか」という視点を持つことの必要性を説いています。短期的利益と長期的繁栄のバランスを取る政策立案の枠組みを提案し、日本経済の将来ビジョンを描いています。


著者とは社会人デビュー同期で、平成の経済政策史については、ほぼリアタイで体験している。これまでの30年の経済政策を経済学のトレンドともに振り返れたのは有益だった。こうした経済学と実際のPolicy making をつなぐ話者が昭和のころに比べて減ったと思う。小宮隆太郎教授のように、火中の栗を拾うような学者に期待したい。ワイドショーではなく、経済誌で。

金融村の部分最適と経済全体の最適のギャップの話も納得した。いま、同じような構図が放送村と日本のメディア全体でも起きているのがわかった。身内の批判ができないというのは、直系家族の罠のいち要素。アメリカが金融危機をいち早く鎮圧したり、イーロン・マスクが政府に大ナタを振るったりするのは、「空気を読まない」から。嫌われる勇気というべきか。


印象に残ったのは以下の点です。銀行救済については、柳澤氏の本を批評してました。

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柳澤氏や金融庁は、マクロ経済の動向は金融システムにとって外部の所与の条件であるとみなし、金融機関の健全化を図ることを(唯一の)目的として不良債権処理を進めた。不良債権が第三者の家計や一般企業に与える不確実性の弊害については、そういうこともあるかもしれないが、それは金融行政の「管轄外」なので致し方ない、とわりきっていたのであった。p.31

縦割りの弊害

伝統的に日本政治には、専門性の高い分野の危機管理問題は専門家に任せるべしと言ってタイky区的な判断を避けて思考停止する、という悪弊がある。同じ金融でも、ミクロは金融庁、マクロは日銀、と「縦割り」になっていて、ミクロとマクロの両面に配慮して全体最適を図る人はどこのいもいない、という体制になってしまっていた。「不良債権の加速」というミクロの手法でマクロの効果を狙う政策課題は、縦割りの隙間に落ちてしまったのである。p.33

FED vs. BIS

資産バブルについては、FEDビューとBISビューの2つの考え方が以前から並立していた。 p.126

「FEDビュー」と「BISビュー」とは?金融政策の伝統的な2つの立場を解説
中央銀行の金融政策は、「BISビュー」と「FEDビュー」の2つの政策スタンスに大きく分かれる。2つの立場の違いを理解すると、各国の中央銀行の金融政策をより深く理解できるようになるはずだ。ここでは、2つ...

これも、欧州と米国の考え方の違いが典型的に現れるところです。

パブリック・デッド・オーバーハング

財政リスクが平時の経済成長率を引き下げるリスクについて理論・実証研究を紹介していました。

Public Debt Overhangs: Advanced-Economy Episodes since 1800 - American Economic Association
Public Debt Overhangs: Advanced-Economy Episodes since 1800 by Carmen M. Reinhart, Vincent R. Reinha...

彼らは主要先進国など26の財政エピソードを分析し、「公的債務がGDPの90%を超えると経済成長率が1%下低下する」という関係を示した。p.207

低金利の長期化と財政悪化のスパイラル

若い政治家は、財政悪化が国民生活の悪化につながらないので、「いくら国債をはっこうしてもなんのコストもない」p.218 という感覚が経験から刷り込まれている。とのことで、あまりに異常事態が長期化するとそれが「常識」になってしまうのですね。

長期的な財政再建のために、米英のような独立財政期間に30-50年先の長期推計を委ねることも提案してました。p.222(アメリカ議会予算局/CBO、イギリス予算責任庁/OBR)

財政再建

債務比率を安定化させるために必要な収支改善幅が、非現実的なほど巨額になるという計算(GDPの14%=70兆円=消費税30%引き上げ分)は、財務省の資料からでてきたものだった。p.234

ScienceDirect

https://research-information.bris.ac.uk/ws/portalfiles/portal/81190034/Mapping_and_exploring_July_2014_print_version.pdf

お先真っ暗になったところで、矢巾町のフューチャーデザインの話p.250

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Foreign Affairs で取り上げられるのはすごいですね。

The Beginning of History
Surviving the era of catastrophic risk.

著者は政策担当者のエリート主義を批判してます p.264 1970年の合理的期待仮説によるケインズ経済学批判と類似していると。

その批判の眼目は、「ケインズ経済学は、政策対象の国民を思考力のある対等な人間とみなしていない」という点であった。

歴史は繰り返すのでしょうか。

では。

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