岡本一郎 光文社新書 349
広告業界の人は、ネットを戦略という視点から考えるべきという本。タイトルの是非はともかくとして、ネットという新しいメディアを明確に位置づけて、その対処法を示しており、参考になりました。
まず、旧来のメディアが、AIDMAのAttentionに訴えるのに対し、Googleは、Interestに訴える媒体であること。つまり、Googleは、旧来のメディアを単に代替するのではなく、受注にいたるステップの一歩先に働きかけている。次に、ネットは、
セグメントされたターゲット層に対して、情緒的・感覚的なブランドコミュニケーションを行うことが可能なメディアp.45
であること。これまで感覚に訴える動画等を配信できるのはテレビ(マス媒体)でしたが、初めて、映像を処理できて、かつターゲティングが実現できるメディアが登場したこと。しかし、実際の現場の例として飲料業界を紹介していました。
年間だいたい800から1000の新規ブランドが導入されますが、翌年までに定番商品として残るのは3つ程度しかありません。p.46
ということで、日本企業は、いまだにマスに対する商売を続けているのですね。ネットは、マス・メディアとに加えて使うのではなく、企業戦略の根本的見直しを迫ります。BMWが、30億円かけてネット広告を作ったのは、企業戦略にメディアが追いついた例。リコーのデジタルカメラp.191とブラザーの顔の見えるブログp.192は、企業側が姿勢を変えた例になっています。
メディアの対応策も具体的に示されています。雑誌でいえば、一般週刊誌、女性誌、情報系の雑誌が苦戦しているのに対し、ビジネス誌、高所得者向けの雑誌は伸びている。ネットに代替されるところで勝負するのではなく、逆に市場での価値が高まっているところに焦点を当てるべきなんですね。
テレビについては、アテンションの低下という現実があります。
テレビといおうのはもっとも視聴率の高い時間帯でも、全局の合計視聴率が60%程度しかない(中略)。つまらないから見ないという層が、4割のうちりも半分、2割くらい存在することがわかっています。しかもこの人たちは、テレビを見る6割の人たちよりも、可処分所得が高いということもわかっています。
「発掘!あるある大事典」事件を、アテンションに依存するビジネスモデルが限界に達した象徴とし、これに対しては、TVをみない層向けの小リーチのメディアによってポートフォリオを組む、あるいは、プレイヤーを減らすことでシェア低下を防ぐことを提案しています。
コンテンツ制作側については、コンテンツの敵は(過去の)コンテンツと喝破しています。たしかに、クラッシックは、過去のコンテンツを聞きまわすだけで需要を満たしており、現代のクリエーターに対する期待はしぼんでしまっています。Googleが映像も整理しつくすと、同じことがクラッシック以外にもおこりうる。
それに対抗するには、10人中8人がまあまあと評価するものでなく、2人が絶賛し、8人が酷評するようなものをつくるのだそうです。「せんとくん基準」とでもいいましょうか。
Web 2.0の騒ぎもひと段落し、おちついてネットの光と影を分析できるようになりました。本書は、メディア・B2C企業だけでなく、さまざまなな会社の参考になると思います。