【本】ウクライナ危機後の世界

ウクライナ危機後の世界 ジャック・アタリ ほか 宝島新書 2022

1年前に出版された、ウクライナ戦争をめぐる論考。印象に残ったのは、ティモシー・スナイダー教授(イェール大学)。プーチン大統領が重要視するイヴァン・イリインの言葉。

 彼にとってはロシアとは「無垢」で常に外部から脅威に晒されているものでした。「自由」や「平等」というのは大敗したヨーロッパ的な価値観であり、ロシアはその退廃的な価値観に侵されていない「純粋さが」あると考えたのです。
 そのようなロシアの純粋性こそ、世界を救済するものであり、またその純粋さのために、常に脅威に晒されている無垢なロシアは「救世主」を必要とするとイリインは定義づけます。彼が考案した政治制度は、救世主の人格を一つの制度とみなしました。つまり、救世主は主権者であり、国家元首であり、独裁者であるべきで、行政・立法・司法のすべての権限を手中に収め、軍の最高司令官であるべきです。

p.44

私は、アメリカやヨーロッパで営まれる政治体制について、それを「必然性の政治」と呼んでいます。アメリカの資本主義者は、「自然が市場を、市場が民主主義を、民主主義が幸福をもたらした」と考えるでしょう。またヨーロッパの人々なら、「歴史が国民を生み出し、国民が戦争の経験から平和を学び、その教訓から統合と繁栄を選んだ」と述べるかもしれません。

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 民主主義の世界では、国家は指導者よりも長く存続します。そのような仕組みを継承原理と呼びますが、これが適切に働いていれば、歴史は連綿と続いていくのです。それが欧米の民主主義国に見られる「必然性の政治」です。
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 1991年にソ連が崩壊するまでは、共産主義体制においても独自の「必然性の政治」があったと私は思います。それは「自然が科学技術の発展を促し、科学技術が社会変革を可能にし、社会変革が革命となり、革命が共産主義社会というユートピアを実現する」という発展の歴史です。

p.46-47

ところがソ連崩壊後にロシアには、「永遠の政治」が生まれました。

  「必然性の政治」が国民によりよい未来を約束するのに対して、「永遠の政治」おいては、常に体制は受難のうちにあり、外部から脅かされる脆弱な存在です。そのような国家の政府に求められるのは、社会全体を発展させるのではなく、ただ外部の脅威から国民を守ることだけだと、「永遠の政治」を行う政治家たちは考えます。

p.47

また、ポール・クルーグマンは、対露制裁を第二次世界大戦中の対日制裁と比較していました。p.91 今回は、中国が逃し弁(エスケープ・バルブ)になるというのは、その通りですね。
 
 では。

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