NHKスペシャル「ワーキングプア」取材班 ポプラ社 2008/07
NHKスペシャルの「ワーキングプア」シリーズ第3弾が、07年12月に放映されました。その内容をまとめた本です。2回の放送で、その実態をレポートした後に、解決策を探るないようになっています。韓国、アメリカ(ノースカロライナ州)、リバプールと世界を回り、日本のセーフティーネットの貧弱さを浮き彫りにしています。
「おわりに」では、岩手県宮古市の田老製作所に、本番でOAできなかったお詫びに行ったスタッフと社長のやり取りが描かれています。同社のように追い詰められている会社が、OAできないほどあふれている現実。また、他社に見せるのが恥ずかしい内容を義憤に駆られて公にしようとする社長。編集する権利はTV局にあるものの、5時間かけて事情説明に向かうスタッフ。東京にいては見えない、今の日本の姿が結実していました。
日本の貧困率は、15.3%(p.11)。アメリカの17%に次ぐ高さです。韓国が13%。同国の賃金労働者に占める非正規雇用の割合は、55%にも上ります。(2006年) p.13 日本が33%ですから、その深刻度がわかります。原因は、通貨危機以降の雇用契約の見直しにありました。牛肉問題で大統領が追い込まれる背景には、こういう厳しい労働問題があったのですね。
ノースカロライナ州では、ワーキングプアのための再教育プログラムが紹介されています。グローバル化の影響を受けずに安定雇用を実現するために、バイオテクノロジー産業を選んだところに、地方政府の戦略を感じます。
シカゴの町外れにあるキャリア移行センターの言葉が、重くのしかかります。
それまでやってきた仕事への執着があるのは当然理解できますが、今、世の中で求められているのは、そうした”職人気質”ではなく、変化についていく能力のほうなのです。p.80
リバプールの例では、相談員が紹介されていました。ただ職業紹介所で待っているだけではダメで、もう一歩踏み込んで声をかけることが大切なんですね。
結論としては、『貧困来襲』と同じような着地になっています。日本の福祉は企業が担っており、そこから外れた人向けのセーフティネットがない。国が真正面から貧困問題に取り組む必要があるのですが、現実は、殺人事件が起こるようになってしまいま
した。
最後に、”Nickel and Dimed“のエーレンライク氏にインタビューしていました。彼女の言葉が印象的です。
私にとってこの問題は、倫理に関わる問題なのです。国がこの問題にどのように対処するのか、それによってその国の倫理観、価値観が試されるのです。p.235
では。