Robert B. Reich 2016/5
ライシュ教授は、ビル・クリントン大統領のもとで労働長官。オバマ大統領のアドバイザー。ペーパーバック版を読みましたが、ハードカバー版は2015年9月出版。邦題は、『最後の資本主義』 以前、『暴走する資本主義』は読みました。
第一部は、資本主義の分析。所有権、独占、契約、倒産、執行の順番に検証しています。分析の枠組みは、オーソドックスなものですが、データを丁寧に積み上げているので、説得力がありました。たとえば、第5章 New Monopoly
Monsanto, the giant biotech corporation, owns the key genetic traits in more than 90 percent of the soybeans planted by farmers in the United States and 80 percent of the corn.
バイオ大手のモンサントは、一代限りの種子を農家に供給し、独占をはかっているのだとか。
By 2014, Wall Street’s five largest banks held about 45% of America’s banking assets, up from about 25 percent in 2000. p.40
金融寡占は、リーマンショックでむしろ強まったのですね。
第7章 新しい時代の倒産の形では、企業破綻を通じて、会社が誰のものかを検証しています。
Buried within the staid laws of bunkruptcy are fundamental political and moral questions. Who are “we” and what are our obligations to one another? p.66
第2部では、中間層の没落が描かれていました。P.116の労働生産性と、実質賃金の乖離のチャートは象徴的です。
(資料:Economic Policy Institute, go.epi.org/2013-productivity-wage)
大卒の平均賃金のチャートは、p.118。
(資料:Economic Policy Institute)
その原因のひとつを労働組合の組織率の低下としています。p.132
第3部は、対策。
p.162には、景気回復時の所得分配のチャートがありました。
過去70年のトレンドと、リーマンショックからの回復の状況が、トランプ大統領を呼んだのがわかります。
ただ、対策は、包括的なものではない印象でした。
As a first step, it would reform the nation’s system of campaign finance in order to get big money out of politics. p.191
元国会議員の大半がロビー活動に従事しているからなのでしょうが、日本人にはピンとこないかと。
「見えざる手」を単純に信じるわけではなく、市場メカニズムのルール自体が、勝者だけが勝ち続けることに疑問を投げかけていました。「自由な市場」か「大きな政府」かではなく、どのような市場にするかを問うているわけです。巨大資本(富裕層)が政治に働きかけて自分たちに有利なようにルールを作り変えているという視座。政治と経済がますます一体として問われますね。
では。
【参考】
https://mainichi.jp/articles/20170129/ddm/015/070/033000c