マシュー・バロウズ ダイヤモンド社 2015/11
THE FUTURE, DECLASSIFIED by Mathew Burrows, 2014
アメリカ国家情報会議(NIC)の分析・報告部長だった著者の未来予測。 5年前の本ながら、参考になりました。第1部は、メガトレンド。
- 個人へのパワーシフト
- 多極化
- 技術革新
- 気候変動
昔は国家しか与えられなかったレベルの脅威を、いまは個人や小さなグループが与えられるようになった。いまは、テロリストがマンハッタンやワシントンの象徴的な建物を吹き飛ばせる時代だ。大英帝国の全盛期、イギリスはアフガニスタン人の聖戦を警戒していたが、それがロンドンに及ぶことを心配する必要はなかった。
p.6
私がこうして母国を離れて、仕事ができるのも、飛行機代が安くなったり、パソコンやネットで離れた人と協業できるからです。素晴らしい時代なのですが、その技術は、テロリストも使えます。それが、移民排斥機運→ポピュリスト隆盛→ブロック経済 というながれなら、なんとも皮肉かなと。欧州議会の議員の言葉。
昔と違って有権者は容赦なく過激な要求を突きつけるようになった。しかも24時間365日やむことがなく、長期的な目標に取り組むどころではない。
p.20
ブラジルの閣僚経験のある政治家。
「アイデンティティ政治は分裂をもたらすだけで、価値観の収斂につながらない。アイデンティティ政治は、他人との共通点ではなく、違いを強調するからだ」 さらに彼は言った。「私に言わせれば、この世界はホッブズ的であって、カント的ではない」
p.21
個人が力を持つようになったのは、経済的な豊かさ。
政治を安定させるには、中間層を満足させなければなりません。
あるEUの報告書は、過去10年間、毎年7000万人以上が中間層に加わったとしている。それによると、「2030年までに、世界の人口の過半数」が中間層になると見られる。
p.25
民主主義の赤字とは、ある国の経済レベルが、統治レベルを上回るときに生じるといわれる。理論的には、民主主義の赤字を抱える国は、さまざまなきっかけで、国民の不満が爆発する危険をはらんでいる。
p.41
最大の赤字国は、中国でしょう。
一般に所得水準が1万5000ドルを超えると、民主化運動が起こると考えられている。(中略)現在の中国の中間層は人口の10%程度だが、2020年には40%に達する可能性がある。
p.44
しかも、中国の30歳以下の若者は、愛国主義的な見方を持ちつつあるのだとか。
中国のインターネットユーザーが目にする情報のうち、外国語の情報は20%強しかない
p.51
2番目は、多極化。中国は台頭しましたが、人口オーナスに。
中国の生産年齢人口は、2016年に9億9400万人とピークに達し、2030年には約9億6100百万まで減るだろう。
p.63
インドとは、人口構造が違うことを指摘しています。
第3が技術革新。
ゲノム解読の費用は、劇的に低下してきた。2003年に初のゲノム解読が完了したときの費用は、10億ドルを越えていたが、やがて、1億ドルに下がり、いまや1000ドル程度で、今後さらに200ドルまで下がろうとしている。
p.98
医療が根本的に変わろうとしている様を書いています。体外受精が一般化。遺伝子操作の「一線」もあいまいに。
第2部では、4つの危機を小説形式で記述してあります。最初が中国の成長鈍化。豊かになる前に老いる中国は、2019年に現実になるかもしれませんね。
中国にはノーと拒絶するパワーはあるが、ポジティブなパワーはない
p.156
2つめは、技術革新。雇用の影響は深刻かもしれません。
過去20年間に世界のGDPにおける労働者の所得は4%減ったが、その約80%が新しいテクノロジーのせいだというのだ。一方、新しいテクノロジー分野で働くひと握りの熟練労働者(と企業経営者・所有者)の所得は増えている。
p.168
読み終えて、困ったことだと思うのは、個人が力を持つようになったからこそ、無力感が漂うという矛盾です。どの国でも働けるようになりましたが、テロからは逃れられなくなるという。こういう本は、継続的に読んでいこうと思いました。
では。