
アメリカはなぜ戦争に負け続けたのか ハーラン・ウルマン 2019 中央公論新社
米戦略国際問題研究所(CSIS)アドバイザーによる戦争の分析。
過去60年で明白な勝利と呼べるのは、1991年の第一次イラク戦争のみ。民主主義が、世界最強の軍隊の最高司令官をうまく選出できていないのがわかります。以下、ジェミニの要約。
本書は、ベトナム戦争から対テロ戦争に至るまでのアメリカの軍事行動を分析し、「世界最強の軍隊を持ちながら、なぜ戦争の目的を達成できないのか」というパラドックスを解き明かした一冊です。
『アメリカはなぜ戦争に負け続けたのか』要約
【基本情報】
- 著者: ハーラン・ウルマン(米海軍出身、CSISアドバイザー、「衝撃と畏怖」戦略の提唱者)
- 主題: 過去60年間の米国の戦争における「失敗の解剖(Anatomy of Failure)」
1. 衝撃的な事実:勝利は「1回」のみ
過去半世紀以上(ケネディ政権以降)のアメリカの戦争において、戦略的・政治的な目的を完全に達成した「明白な勝利」と呼べるのは、1991年の湾岸戦争(父ブッシュ政権)のみである。それ以外(ベトナム、2003年イラク、アフガニスタン、リビア等)は、莫大な国費と人命を投じながらも、当初の目的を達成できず、泥沼化あるいは失敗に終わっている。
2. 最大の敗因:「最高司令官(大統領)」の資質不足
著者は、最大の要因を「アメリカの民主主義が、能力のある最高司令官を選出できていないこと」にあると指摘する。
- 経験不足: 多くの大統領が外交・安保の実務経験や知識に乏しいまま就任している。
- 戦略的思考の欠如: 複雑な国際情勢を分析し、国益に基づいた冷徹な判断を下す「健全な戦略的思考」が欠けている。
- 例外(父ブッシュ): 唯一の成功例である湾岸戦争時のジョージ・H・W・ブッシュ(父)は、自身が戦争経験者であり、外交経験も豊富で、優秀な補佐官(スコウクロフト)と共に明確な目標と出口戦略を持っていた。
3. 戦略不在を埋める「イデオロギー」と「政治的都合」
健全な戦略的思考が不在の空白を、以下の要素が埋めてしまっていることが失敗を招いている。
- イデオロギーの先行: 「民主主義の拡散」や「独裁打倒」といった理想論やイデオロギーが先行し、現地の文化や歴史的背景、地政学的な現実(コンテキスト)を無視した介入を行う。
- 政治的ご都合主義: 国内政治の人気取りや、メディア受けを狙った短期的な視点で軍事行動が決定される。
- 前提への疑問欠如: 「サダム・フセインは大量破壊兵器を持っているはずだ」「独裁者を倒せば民主主義が根付くはずだ」といった基本的な政策の前提(Assumption)に対し、批判的な検証を行わないまま突き進む傾向がある。
4. 失敗の構造的要因
著者は、アメリカが陥る失敗のパターンを以下のように分析する。
- 敵と環境の無理解: 孫子の「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」の、「彼(敵・現地情勢)」を知ろうとしない。
- 責任の所在不明確: 失敗しても誰も責任を取らず、同じ過ちが繰り返されるシステムになっている。
- 軍事力への過信: 圧倒的な軍事力があれば政治的問題も解決できるという誤解がある。
【結論】
アメリカが再び「勝てる」国になるためには、莫大な軍事予算を投じることではなく、「知識に基づいた健全な戦略的思考(Sound Strategic Thinking)」を取り戻すことが不可欠である。それは、大統領および側近たちが、イデオロギーを排し、厳しい現実を直視し、根本的な問いかけを行う知的能力を持つことにかかっている。
私が気になった部分は以下のようなところ。
現在のアメリカにとっての最大の脅威は、イスラム国でも、再起したロシアでも、強引な中国でも、核保有した北朝鮮でも、イランでもない。最大の脅威は、冷戦の終結以来、癌細胞が移転するように広まった強烈な党派主義により、分裂し、内部崩壊し、機能しなくなった政府だ。p.313