
苦悶する中央銀行 金融政策の意図せざる結果 ラグラム・ ラジャン 慶應義塾大学出版会 2024/10
Monetary Policy and Its Unintended Consequences by Raghuram Rajan 2023
シカゴ大学教授の金融政策論。過去の講演を再構成した本です。
【目次】
はじめに 金融政策と意図せざる結果
第1章 暗闇への一歩――危機後の非伝統的金融政策
第2章 金融政策の波及効果の新たな見方――資本フロー、流動性、レバレッジ
第3章 国際金融ゲームの新しいルール
第4章 政治的圧力と意図せざる結果
終章 過ぎたるは猶及ばざるが如し
小林慶一郎氏が解説を書いており、要旨は以下のとおりです。
第1章 先進国中銀による金融危機対応は評価するものの、非伝統的金融政策には懐疑的
第2章 「意図せざる結果」のひとつとして、非伝統的金融政策が周辺国に与えた波及効果を論じる。
第3章 非伝統的金融政策が時代の国際的な政策ルールを提唱。
第4章 コロナ危機以降、中銀が能力を超える責務を引き受たことを批判。
終章 非伝統的金融政策からの撤退を主張。低インフレに慣れるべき。
【AIの要約】
本書は、低金利政策のリスク、量的緩和の影響、中央銀行の政策再考、国際的影響、及び名目GDP成長パスの役割に焦点を当て、各論点に引用元を明記しながら包括的に整理しています。
低金利政策のリスク
著者は金融危機後の低金利維持が過剰なレバレッジと借入を招き、システム全体の金融脆弱性を悪化させると警告している。
量的緩和の影響
量的緩和政策が資産価格を押し上げ、銀行のバランスシートに新たな負担を生み、長期的な経済の不均衡を促進する結果となっている。1979年のボルカー議長による短期金利の20%引き上げがCPIを15%抑制した事例が示すように、将来的なリスクも考慮されるべきである
中央銀行の政策再考
従来の低金利・緩和政策の枠組みが見直され、中央銀行は低インフレおよび金融安定性への回帰という本来の任務に立ち戻る必要がある。特に、日本銀行法1997年改正により政策委員会の独立性が強化され(第3条1項)、その影響が注目される 国際的影響
先進国の低金利政策は、国際的に開発途上国での過剰借入や経済不均衡を誘発するなど、広範な影響を及ぼす現象として捉えられている。特に、IMFデータによれば新興国市場からの資本流出率は5.2%に達している
名目GDP成長パス
安定した名目GDP成長パスの維持が、金利の不均衡解消に向けた有効な対策として提案され、過去の政策の反省点を示唆している。
日本については
数十年続いた低インフレが日本の成長や労働生産性を鈍化させたわけではない、高齢化と労働力人口の減少が鈍化の直接的な原因である。p151
と率直に指摘していました。中央銀行が万能でないのはそのとおりだと思いました。
植田日銀は、極めて慎重に非伝統的金融政策からの脱却を試みています。その理論的な背景がよくわかりました。
参考
