山本 七平 文春文庫 1983/10
日本人が抗えない「空気」が醸成される理由を究明した本。空気とは何か。日本にだけあるものではなく、他の国にも有ります。
ルーア(ヘブライ語)の訳語がプネウマ(ギリシャ語)でそのまた訳語がアニマ(ラテン語)という関係になっており、このアニマから出た言葉がアミニズム(物神論?)で、日本では通常これらの言葉を「霊」と訳している。しかし、原意は、希英辞典をひけば明らかなように wind (風)、air (空気)である。p.56
違いは、日本は、その空気に考え方が支配されてしまうところ。たとえば、道徳。著者は、「日本の道徳は差別の道徳である」と主張しています。
日本の道徳は、現に自分が行っていることの規範を言葉にすることを禁じており、それを口にすれば、たとえそれが事実でも、”口にしたということが不道徳行為”とみなされる。p.13
その空気を象徴するのが、軍令部次長・小沢治三郎中将の言葉。
「全般の空気よりして、当時も今日も(大和の)特攻出撃は当然かと思う」 p.15
大和の出撃に反対する人には明確な根拠がある。一方反対する人に根拠はない。その根拠は、もっぱら「空気」なのです。
「空気」とはまことに大きな絶対権をもった妖怪である。p.19
のです。
p.32で、日本人をユダヤ人と比べたエピソードが掲載されています。遺跡発掘プロジェクトでの、人骨に対する反応。ユダヤ人は人骨を物質として捉える。一方、日本人は、人骨という対象を絶対化・物神化して、病人のようになってしまいます。日本人は、
物質から何らかの心理的・宗教的影響をうける p.33
のです。
感想です。日本人が海外で組織運営するときに、課題となるのは、外国語というよりも、この空気なのかなと思いました。現地の人と外国語で話している時には、根拠に基づいて、話しを進めます。しかし、日本人と日本語で話し出すと、先輩後輩、敬語が始まり、空気が発生します。この切替を「エアコン」とでも呼びましょうか。これが手間がかかる上に、何も生み出しません。
人工知能についても、気になります。AIが意思決定の支援、あるいは意思決定そのものをするようになってくると、空気はなくなるのでしょうか。あるいは、日本人をDeep lerning したAIは空気を察するのでしょうか。
参考
【本】日本人とユダヤ人
【本】一下級将校の見た帝国陸軍
【本】なぜ日本は変われないのか