【本】希望の資本論

希望の資本論 ― 私たちは資本主義の限界にどう向き合うか

佐藤優 池上彰 2015/3 朝日新聞

資本論を読みましょうという本。21世紀に入って、マルクスの論考が重要になると感じていました。シンガポールに移住してから、確信に変わっています。

というわけで、本編は、そういうことなのですが、ピケティと佐藤氏の対談が収録されており、ここに価値があります。『21世紀の資本論については、経済学者から、さまざまな批判がよせられていますが、私が興味を持ったのは、以下の2点。

ひとつは、植民地支配(p.165) 。同じイギリスの植民地でも、イラクとシンガポールでは、運命が分かれました。

ピケティ 不平等の解消はそもそも難しいのですが、資産の所有者が外国だとさらに問題は複雑です。 p.166

現在テロが起きている国々は、植民地時代があり、この考察も待たれるところです。

もう一つは、家族類型について。

佐藤 エマニュエル・トッドさんは「平等という考え方は家族制度に規定されている」と言います。単純化すれば、フランスの(中央部から北部にかけての)パリ盆地を除き、平等相続をする家族制度はほとんどない、と。

(中略)

ピケティ エマニュエルは友人で、彼の主張もよく知っています。ただ一つ立場が異なる点は、「変化」の可能性については私はより楽観的だということです。p.167

『21世紀の資本論』のような格差論が、平等核家族のフランスから出てきたことは、納得できるところです。絶対核家族なアメリカからは、反論が多く寄せられ、直系家族なシンガポールでは、醒めた感じで受け止められる。格差論について、家族類型をぶつけた佐藤さんはさすがだと思いますし、ピケティ氏が、トッド氏の議論を踏まえた上で、持論を展開しているというのも、新鮮でした。

私の人生の前半は、共産主義が行き詰まり、資本主義のたがが外れる50年でした。後半は、家族類型や歴史的背景の違いが、世界政治(経済)を激しく揺り動かす半世紀になるのではと予測しています。

グローバル企業の経営も、家族類型や歴史的背景を無視していては立ち行かなくなるのではないでしょうか。家族類型の違いを見極め、どこまでローカル化するのか。日本企業の経営力が問われるようになりますね。

では。