【本】中央銀行は闘う

中央銀行は闘う
竹森俊平 日本経済新聞出版社 2010/7

東洋経済:2010年上期 経済書ベスト20 第3位。バーナンキは正しかったか? に並ぶ傑作。ユーロの今後を考える必要のある人には必読の本です。

第1章では、ケインズとバジョット(Walter Bagehot)を比較します。バジョット・ルールとは:

銀行に対する取り付け騒ぎが生じた場合に、中央銀行は「優良な担保を受け取れるなら、高い金利をつけて、どんどん貸し出せ」 p.30

今回の金融危機でケインズが復活したと考える人は多い。しかし、金融政策を通じてマクロ経済を管理しようとするケインズ的な考え方が力を得たというよりは、金融機関や国家財政の安定化を目指せというバジョット的な考え方が復活したのではないかという考え方が提示されます。

アメリカでは、最後の貸し手という言葉が拡大解釈されて、ベアやAIGの救済は、国有化であり、本来であれば政府の仕事であるはず。しかし、今回は中央銀行が行った。すなわち、

民主主義に基づいた政治プロセスというものは、必ずしも危機管理に適していない。p.48

第2章では、『資本主義は嫌いですか』で解説した「動学的効率性」という概念を「マジック・ナンバー」(名目金利-名目成長率)ということばで説明。これが、

マイナス: 不動産・住宅バブルの危険
プラス : 財政破綻の危険

となる。図表2-1に各国のマジック・ナンバーが一覧表になっているのですが、アイルランド、ギリシャ、スペインはみごとにマイナスになっています。
話は、ユーロの矛盾点、すなわち金融政策と財政政策の主体の違いに移ります。政策金利はドイツフランスの妥協で決まるため、PIIGSには政策金利が低すぎ、マジックナンバーがマイナスになってしまったことがわかります。
次に、議論は、グローバル・インバランスへ。図表2-4 主要国の住宅価格上昇率と経常収支変化率をみると、資本輸入国ほどバブルになっていることがわかります。バーナンキ議場の言葉に要約されています。

低金利政策を取った国が、バブルを経験したという因果関係はさほど強くないが、外国からの資本輸入を増やした国が、バブルを経験したという因果関係は強い。

話はキャリートレードの責任論から、国際資本取引規制に及びます。
第3章「大恐慌に学ぶ」では、歴史家のハロルド・ジェームズに学び、大恐慌を1929年型と1931年型に分けて整理。1931年型には金融政策だけでは対応できなことを明らかにする。
ジェームズの

小国はケインズ政策を実行することができない。p.158

という引用以降のマクロ政策の整理は、今回の金融・財政政策の是非を整理するのに有益でした。
そして、議論は、ドイツの役割に移っていくのですが、印象的なのは、エピローグにある緑の党ヨシュカ・フィッシャー氏のコメントp.302。

欧州共同体は発足当初から『トランスファー・ユニオン』だったのです。

このような政治的な難しさを描いた上で、結びは政治の意志になっています。リーマン危機へのバーナンキ議長へのあるエコノミストの言葉:

“There was no political will in the system to save Lehman. Hence, there was no legal will.” Economic Confidence Rebounds (WSJ  sep 11, 2009)

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