【本】資本主義は嫌いですか

資本主義は嫌いですか―それでもマネーは世界を動かす資本主義は嫌いですか―それでもマネーは世界を動かす

竹森 俊平 日経 2008/9

いい本ですね。先日『1997年 世界を変えた金融危機』を紹介しましたが、今回は、サブプライムに焦点をあてた本です。小幡先生の『すべての経済はバブルに通じる』と並ぶ良書でした。

前著と共通するのは、ナイトの不確実性。金融機関が、これほど大きな不確実性にのめりこんだのは、資本主義下で利潤を求める必然の結果でした。P.8にタクシー業界(リスク)との比較が取り上げられています。タクシー業界の平均賃金は、全産業平均より200万円低いのに、2007年、ウォールストリートの銀行のオーナスは、3.3兆円でした。金融界の実態は、

「空前の利潤」ではなく、金融業が踏み込んだ「不確実性」の領域に棲息する計算のできない危険を引き受けることに対する「代償(プレミアム)」にすぎなかった。p.12

この点については、ファンド・マネジャーの報酬が非対称であることを批判しています。利益が上がったときには、巨額の報酬が与えられるのに、損したときには、首になるだけ。彼らが不確実性をとりに行くインセンティブが報酬体系にありました。

第I部では、バブルが取り上げられています。John Lawのミシシッピー計画などを例に、今回のサブプライム・バブルを分析しています。個人的に面白かったのは、サミュエルソン教授の社会保障をめぐるコメント。

社会保障制度のすばらしさは、それが年金数理的な会計上は収支が均衡せず破綻しているという、まさにその点にある。(中略)実質所得が年3%で成長を続けるかぎりは、社会保障制度の毎年の支出を賄う課税ベースからの収入が、退職者が減益中社会保障のために払い込んだ税額を大幅に上回るのだ。成長する経済とは、かつて構想された中でもっとも壮大な『ねずみ講』である。 p.84

思えば、年金や健康保険という『バブル』もいつのまにかはじけていたのこかもしれません。

第II部では、U of Chicago の Prof. Rajanの論文(“Has Financial Development Made the World Riskier?“)が紹介され、彼が2005年に、今回の危機に的確な警告を出していたのがわかります。アメリカは、騒動を起こした震源地でもありましたが、鋭い分析でも世界をリードしていたのがわかります。

何度か読み返したくなる本ですね。

では。
【参考】
週刊東洋経済(2008/12/27) 「2008年決定版経済・経営書ベスト100」で1位になりました。ちなみに、すべての経済はバブルに通じるは5位。インタビューは、お二方でした。