【本】トッド人類史入門

トッド人類史入門 エマニュエル・トッド 文春新書 2023

我々はどこから来て、今どこにいるのか?』の副読本。トッド教授の本は、学術的なため長いのですが、佐藤優氏と片山社秀氏との対話を通じて、ビジネス・パーソンにもわかりやすくなっています。

一時帰国した時にも、ウクライナ戦争の行方について聞かれましたが、トッド氏の分析、とりわけ家族類型からみた価値観の違いが引き起こす対立についての理解が不可欠だと思います。

 人類史の2つの逆説はこちら。

 第1に、西洋人は「最も」進んでいると思い込んできたわけですが、西洋の科学技術的に・経済的近代は、むしろ太古的な家族システムに符合していることです。(中略)

 第2に興味深いのは、かつて文明の発祥地だったユーラシアの中心部ほど、ある時点で歴史の発展が止まってしまったことです。

 ここで重要なファクターは「女性の地位」です。当初は「文明化の指標」だった「女性の地位の低下」が、人類史のある時点から、「社会の発展の阻害要因」にとなったわけです。

p.26

  日本を特徴づける直系家族について。

「知識や技術や資本の蓄積」を容易にし、「加速の原則」という強みをもっていますが、他方で、過剰に完璧になると硬直化するという弱みがあります。「キャッチアップ」は得意でも「創造的破壊」は不得手なのです。「老人支配」を招きやすいのも難点です。

p.28

宗教は衰退しているのにその影響が残る例として、東アジアの「ゾンビ・儒教」を挙げ、親の介護と子供の教育の負担が重すぎて少子化を招いていると分析していました。p.30

イギリスの分析は辛辣でした。p.64 パブリック・スクールは、富裕層の子息のための居心地のよい場所になってしまった。病院はとくにひどいと分析。

 いま英国を襲っている経済的苦境は、EU離脱時代が問題ではなく、国内の産業基盤を再生するための具体策がないことが原因です。要するに、国内産業を担うエンジニアがいないのです。

p.64

  ドイツについては、米国がかつてのような保護領に戻したと分析。

いま起きているのは、「ロシアによる侵攻」というより、英、ポーランド、ウクライナを従えた米国による「ドイツ(欧州)の囲い込み」なのです。

p.67

こういう味方は、欧州に住んでいないと思い至らない発想で、日本人には参考になると思います。