国際政治を勉強するひとつの方法は、各国首脳の回顧録を読むことでした。これまで、日本の首相の回顧録をタイムリーに読めることはありませんでしたが、幸か不幸か読むことができました。非常に貴重な資料で、日本の政治家が、その時代、世界政治を動かしていたのがわかりました。
465ページの中で、私の印象に残ったのは、次のとおりです。
ひとつは、元号制定に首相が積極的に関与していたことです。
発表が近づいた3月20日、いくつかの元号案を見せてもらいました。私は、「これがいいね」という案が出てくるのだろう」と思っていたのですが、大変申し訳ないが、どれもピンとこなかった。日本人の心情に溶け込み、一体感を醸成する感じがしませんでした。
p335
ソニーでも商品名をめぐるトップの役割についていろいろ見聞きしました。元号を決める時に、こういう数値化できない感覚を持っている首相で良かったと思いました。
安倍首相にこういうセンスがあったのは、意外でした。絵に描いたような政治家一家で、ともすれば、庶民の感覚とズレてもおかしくありません。一度、首相を辞して、選挙区を回ったのが無駄でなかったのだと思いました。
外交に関しては圧巻でした。海外首脳の回顧録を読んでも、それまでの日本の首相については、あまり良く描かれていないことが多いです。安倍さんの交友範囲は圧倒的に広く、人物評も的確でした。
官庁の評価も興味深いものでした。
財務官僚は、鑑定の首相執務室に複数で来て、私に財政政策について説明する時、1人の役人しかしゃべらないのです。同席いる財務省の数人は、私が何を言うかメモを採っているだけなのです。(中略)
同じ完了でも経済産業省の役人は、執務室に来て私の考えを聞くと、その場で議論を始めるのです。(中略)
外務官僚は、担当地域の局によって縦割りが激しく、個人プレーでいろいろ主張するのです。警察官僚は、私が暴力団の情勢に関心があったから、暴力団の抗争の説明には来るのですが、それ以外の案件で、執務室に来ることは稀でしたね。
p.288
こういうのを聞くと、政治家が新聞記者を重宝するのもわかりますね。官僚では、話し相手として不足なのでしょう。
日本憲政史上最長の政権になった理由に第1次内閣での挫折を挙げています。 p.376
私は第1次内閣で首相に就任するまでに、官房副長官を3年以上、さらに官房長官を1年やり、首相官邸の役割や中央省庁との関係、政策決定の仕組みなどをある程度分かっているつもりでした。官邸を十分経験しているから、首相になってもやっていけると思っていたのですが、そうした考え方は、うぬぼれでした。総理大臣となって見る景色は、官房長官や副長官として見るものとは、全く別だったのです。
p.377
トップの責任は、様々な伝記で聞く話です。安倍首相が早すぎると言うのであれば、日本で40代のトップを作るにはどうしたら良いのでしょうか。高齢化が進む直系家族的な社会を改善するには、若いトップが失敗できる環境づくりが必要というのが私の持論ですが、ひとつ宿題をもらいました。
では。