【本】家族システムの起源

家族システムの起源(上) エマニュエル・トッド 藤原書店 2016/6

 『新ヨーロッパ大全』(1992)において著者は、ヨーロッパ各地域の宗教および文化的伝統を家族の型との関連で説明しました。本書では、ユーラシア大陸全域にわたる膨大な民族学的資料を駆使して、家族類型を詳らかにしています。そこから見えてきたのは、次のような逆説でした。

 

ユーラシアの周縁部に位置する、現在最も先進的である国々、とりわけ西欧圏が、家族構造としては最も古代的なものを持っているということを、示しているからである。発展の最終局面におけるヨーロッパ人の成功の一部は、そうした古代的な家族構造はかえって変化や進歩を促進し助長する体のものであり、彼らヨーロッパ人はそうした家族構造を保持してきた、ということに由来するのである。このような逆説は、日本と中国の関係の中にも見出される。日本は経済的に中国に比べてひじょうに進んでいるが、家族構造としてはより古代的なものを持っているのである。

p.3

本書の詳細な情報は、ビジネスパーソンには不要だと思いますが、それぞれの地に赴いた後で、本書を参照すると、新たな発見があるでしょう。

 日本に直系家族が成立するはるか前から中国は共同体家族が成立していました。父系的家族が2000年も続くと、女性が纏足にまでなってしまうのですね。共同体家族の権威と平等が同時に存在する価値観は、共産党(中央集権と社会主義)に合っています。

 その共同体家族が、中国とメソポタミアのような定住社会と、遊牧社会が接触するなかで成立したというのも興味深い指摘でした。

 p. 160 の地図をみれば、直系家族が中国から見た同心円上に分布しているのがわかります。朝鮮、日本、中国南東、ベトナム(北)、チベット。みごとなまでに北京の思想とは相容れない地域です。

 第6章東南アジではこの地域の母方居住が語られています。日本にも通い婚がありましたが(海老蔵さんはいまだに伝統を守っているようですが)、東南アジア人の考え方の出発点がわかる気がしました。また、家族類型では、中国よりもインドの影響が強いというのも興味深いところです。今、ビジネスで訪れると華僑が席巻していますが、価値観においてはインドの影響がいまもなお強いのかもしれません。