【本】世界金融秘録

世界金融秘録  

神田眞人 文藝春秋 2026

ADB総裁の回顧録。国際政治が日本人の視点からどのように動いているのかがわかり、勉強になりました。『通貨烈々』の時代の財務官は、アジア初のG7メンバーとして肩に力が入っていたように記憶しています。現代の財務官の交渉は、とてもこなれていて、国際社会で積み上げてきた日本政府の努力を実感できるものでした。

先日の『半導体』が産業側からの30年史とすれば、本書は金融側からの30年史でした。同じく、中国の台頭(日本のプレゼンスの後退)による地政学的なリスクの高まりに、どのように対処していたのかがよくわかりました。
最近話題の為替介入については、国際金融のトリレンマに触れていました。

p.56
この数年のIMFの公的見解では、為替介入は、シャローな為替市場の大変動を円滑化する場合と言った極めて限られた局面のみに許されるし、有効であるとされるようになっていた。しかるに、日本円はドル、ユーロに並ぶ、ぶ厚い為替市場を有するので、認容されず、また、効果がないのではないか、というのが彼らの立場である。

p.57
国際金融のトリレンマと呼ばれる、為替相場の安定、金融政策の自律性、資本移動の自由、の3つの政策目標を同時に完全達成することはできないという、私も信奉している理論に則れば、我が国は自由な資本移動と金融政策の自律性を選択している以上、為替相場の安定性が犠牲になってしまうのはやむを得ない。

まさに、ここが陸つながりの欧州と違うところだと思いました。欧州では、自国通貨が安くなれば、隣国から自動車が殺到して、ガソリンスタンドで給油して帰ります。国民からの突き上げがすぐにあるため、金融政策の自律性を犠牲にしてでも、為替相場の安定を重視します。海に囲まれている日本では、為替の変動が国民に伝わりにくいため、政治的には為替の安定が放置されるのですね。
しかし、一方で、為替の安定性を犠牲にして確保している金融政策の自律性は、保たれているのでしょうか。過去最多の値上げ品数というニュースを聞くと、うまく噛み合っていないように思います。
独裁国家の影響が大きくなる中で、民主主義の立場になって国際社会と関わっているのは素晴らしいことだと再確認できる本でした。

タイトルとURLをコピーしました