恐怖の男
ボブ・ウッドワード 日本経済新聞社 2018/12
FEAR: Trump in the White House
by Bob Woodward
1期目の途中なのに、これほど米政権高官の名前を覚えたことはあったでしょうか。ウォーターゲート事件で名を馳せた著者による名文なのですが、一番印象に残るのは巻頭の写真集。登場人物のキャラがちゃんと立っていて、しかも、もう「卒業写真」になってしまっています。ユーミンの曲がかかって、セピア色に見えます。
題名は、著者が同大統領にインタビューした時の言葉より。
Real power is, I don’t even want to use the word: ‘Fear.’
Donald J. Trump, March 31, 2016.
先日触れた、 Franklin D. Roosevelt大統領の” Only Thing We Have to Fear Is Fear Itself”とはエラい違いです。
米政権運営は、『炎と怒り』で描かれたとおりの混乱ぶりです。Thomas Hobbesの万人の万人に対する闘争 (”bellum omnium contra omnes”)現代アメリカに復活していました。
本書では、政策に対する各人の発言がより鮮明に描かれていました。たとえば、米朝会談の華々しさの影で、在韓米軍にこれほど否定的な見方をしていたというのは、ちょっとショックです。
本書を通じて描かれるのは、大統領の「悲劇的欠陥」(tragic flaw) です。顧問弁護士だったダウド氏のトランプ評。
But in the man and his presidency Dowd had seen the tragic flaw. In the political back-and-forth, the evasions, the denials, the tweeting, the obscuring, crying “Fake News,” the indignation, Trump had one overriding problem that Dowd knew but could not bring himself to say to the president: “You’re a fucking liar.”
p.499
家族類型的には、直系家族のノリが随所に見られます。トランプ家への忠誠を誓えずに、去っていく閣僚たち。自分を「ファースト・ドーター」と呼んだと言われる娘のイヴァンカ。
‘I’m not a staffer! … I’m the first daughter’
ドイツ系移民の名残でしょうか。
2018年は、トランプ劇場な年でした。 皮肉なことに、覇権国のトップが世界に与える影響を、可視化してくれたのがトランプ大統領でした。
2019年もそうなるでしょう。赤道直下の小島で商売をしていても、何らかの形で影響を受けざるを得ません。
同大統領の判断を予測するのは、ほぼ無理ですが、本書を読んだ後であれば、国防長官が辞任したり、FRB議長を解任しようとしたりするニュースも、「まあ、そうでしょうね」と理解できるようになります。
2019年もそうなるでしょう。商売をしていれば、何らかの形で影響を受けざるを得ません。
本書から、現政権の意思決定プロセスを学んだ後であれば、国防長官が辞任したり、FRB議長を解任しようとしたりするニュースも、「まあ、そうでしょうね」と理解できるようになります。その意味で、非常に有益な本でした。
では。
[参考]
日経の書評