【本】炎と怒り


炎と怒り
Fire and Fury by Michael Wolff
マイケル ウォルフ 早川書房  2018/2

トランプ政権の実情を知る本。国際政治のルールが変わったことがよくわかりました。こんな本が書けてしまうところに、本政権の本質があります。鉄鋼、アルミ、自動車など、他人事でない人も多いことでしょう。読まざるを得ません。

プロローグに、バノン氏の中国観がありました。p.26

China’s everything. Nothing else matters. We don’t get China right, we don’t get anything right. This whole thing is very simple. China is where Nazi Germany was in 1929 to 1930. The Chinese, like the Germans, are the most rational people in the world, until they’re not. And they’re gonna flip like Germany in the ’30s. You’re going to have a hypernationalist state, and once that happens, you can’t put the genie back in the bottle.

バノン氏は、政権を去っていますが、こうした世界観が、ホワイトハウスにあったのは事実です。様々な立場の人が、それぞれの世界観をぶつけて混乱している様子が伝わってきます。行政の長という感じが全くしません。たとえば、官僚に対する大統領の考え方は、p.163。

だいたい彼らは--彼らに限らずだが、なぜ公務員になんかなろうと思ったのか?「あの連中の給料は最高でいくらだ? たかだか20万ドルかそこらだろう?」

それは、大統領の独特の情報処理にも起因しています。p.194

トランプは何かを読むということがなかった。それどころか、ざっと目を通しさえしない。印刷物の形で示された情報は、存在しないも同然だった。

ペーパーワークの信条とする官僚とコミュニケートしろというのが無理でしょう。一方、テレビを3台並べて見るというのは、ちょっと真新しい気が。SNS時代の大衆の心を掴むのは、TVとTwitter なのでしょう。

任官をめぐる争いは、トランプ家の地位確立という結果になりました。サウジアラビア王家とのやりとりが印象的です。双方とも「王族」でわかりあえるというのが、なんとも皮肉です。

こうした結果は、p.395

肥大し硬直した行政機関では、最もしいさな仕事ですら達成するには亀の歩みのように時間がかかる。(中略)政治事態も、ますます一般の人から乖離したものになってきている。つまり、政治はB to Bになってしまった。

米朝会談が典型ですが、アメリカの政治は読みづらくなりました。ゲームのルールが変わったのが、本書を読むとよくわかります。アメリカについていえば、こういう大統領が出てくることを承知の上で構築したのが三権分立です。これが機能しないなら、覇権国になっていないはずで、長い歴史から見れば、必要な修正なのでしょう。

国際政治でみれば、なんでも起こりうるという前提で、各国が自分の頭で考えるよりありません。毎日がイス取りゲームと言いますか。ビジネスも同様ですね。2016年に安倍首相が就任前のトランプ氏と会えたときに、自動車への関税を予測した人がどれほどいたでしょうか。今流れている音楽に合わせて踊るより他にありません。

では。