CIA秘録
Legacy of Ashes by Tim Weiner
文芸春秋 2008/11
NY Times記者によるCIAドキュメント。 2007年のNational Book Award、Nonfiction部門受賞作品。おろどオドロしいスパイ小説ではなく、徹底して事実を積み上げることでCIAの実態に迫っています。ソース・ノートが上巻だけで120ページあります。
CIAのカバーする国は膨大で、ひとつの組織のドキュメントであるにもかかわらず、ほとんど「戦後世界史」になっています。
組織論として読めば、Missionが明確でない組織がなかなか結果が出せないところに興味がひかれます。が
問題は、大統領がいったい何を望んでいるのか、だれも知らないことだった。そもそも大統領自身もわかっていなかった。トルーマンは、毎日届けられる情報を要約したものがほしいだけだと言った。毎朝、60センチ以上の高さに積み上げられた電報を読まされるのを避けたかったからだ。上巻p.32
ボスの意向に議論が左右されるという例としては、こちら
9.11以降に直面したとてつもない圧力の下で、その唯一の欠点、すなわち上司を喜ばせるためには、何事もいとわない気持ちが亀裂をもたらした。(中略)テネットの指導の下、CIAはその長い歴史のなかで最悪の報告書を残した。すなわち「イラクで続く大量破壊兵器計画」と題して特別に作成した「国家情報評価」である。下巻 p.329
CIAの存在意義については、スミス大将の証言(p.258)が響きます。
民主主義国が戦争を戦うことはできない。戦争をするときには、大統領に非常権限を付与する法律を通過させる。(中略)
戦争をしているときには、冷戦でもそうであるが、秘密裏に行動できる超道徳的な機関がなくてはならない。……CIAがあまりにも宣伝されたので、隠密の仕事は別の屋根の下に入れなければならないと思う。
12/1、ブッシュ大統領は、ABCでのインタビューで、イラク開戦の大義とされた大量破壊兵器が見つからなかったことが任期中最大の痛恨事と述べました。諜報活動の難しさは、まだ、続いています。
12章では、CIAの自民党への秘密献金や経済諜報の実態などが描かれています。ここだけでも読む価値があるでしょう。
こんな失敗が続くCIAですが、アメリカの姿勢を示すのは、最終章に引用されているT.Rooseveltの言葉でしょう。
It is not the critic who counts; not the man who points out how the strong man stumbles, or where the doer of deeds could have done them better. The credit belongs to the man who is actually in the arena, whose face in marred by dust and sweat and blood;
筆者自体は、あとがきをこのような言葉で結んでいます。
敵の心を知るための唯一の方法は、敵と話すことであり、それこそがスパイの仕事なのである。言葉が話せなければ、人を理解することもできないし、こちらが封じ込め、伊のままに動かしたい政治勢力を理解することもできない。下巻 p.373
日本はどうですかね。まず、漢字の読みからでしょうか(笑)。
では。
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【参考】
・偽りのホワイトハウス