【本】アジア最強の経営を考える

アジア最強の経営を考える

野中 郁次郎, 徐 方啓, 金 顕哲 ダイヤモンド社 2013/8

日中韓の経営学者による経営論。日本企業と欧米企業の比較は、さんざん見てきましたが、中国・韓国との類似点を見ることで、より日本らしさを理解できました。

要旨は序章。

(中韓)両国の企業を比較してみると、コアの支援が手厚いこと、つまり政府が強力なリーダーシップを発揮し、典型的にはインフラ整備や金融支援という形で、産業および企業の発展を下支えをしている点では同じであることがわかった。しかも、それを実行するにあたり韓国が手本としてきたのが、かつての日本の「通産モデル」だというのも興味深い。p.4

日韓には労使関係で大きな差があるようにみえるが、

韓国の代表的な優良企業に目を向けると、日本企業と見まがう制度、観光が見られるところが多い。労使関係は安定し、新卒者を採用して大切に育てる文化があり、長期雇用を重視しているのである。p.5

日中韓の優良企業の特徴は、

1.リーダーシップ(ミドルを重視)
2.ステークホルダー(株主以外も配慮)
3.現地対応重視
4.累積模倣型イノベーション
5.生え抜き重視

リーマンショックの後の本ですので、アメリカ型資本主義の批判が厳しいです。

第2章は、標準化と現地化。現地化の例として、韓国SMエンターテインメント p.37 を取り上げていました。BOAの例。

デビュー前から頻繁に来日しては、著名な日本の女子アナウンサーと一緒に生活した。

個別企業の例からも、いろいろ学べます。たとえば、ハイアール(海尔集团,Hǎi’ěr jítuán)の人単合一(Rén dān hé yī)。

社員のマーケット目標は、上司ではなく自分自身が決める。社員の報酬もマーケット目標の大きさによって決められる。(中略) 2012年9月げんざい、グループ8万人の従業員が2000余の自主経営体を結成し、1経営体に平均40人が所属している。p.139

会社側がプロジェクトの公開入札を行うこともある。プロジェクトは実施の難易度により、A、B、Cの3種類に分けられ、それに従って報酬算出の基数も決まる。報酬基数は、顧客のためにどれくらいの価値を創造したかによって、5段階(利益享受、ボーナス付き、サラリーのみ、赤字決算、破綻処理)に分けられている。p.140

ハーバードも、ケーススタディーとして取り上げていますね。

中国企業の管理モデルがハーバード大の教材に
Haier: Incubating Entrepreneurs in a Chinese Giant (2018/2)

張瑞敏(Zhāng Ruì mǐn)社長は、稲盛会長とも会ったそうで、アメーバ経営との差をハーバード・ビジネス・レビュー(2012/9/19、中国語版)で語っています。

このモデルは日本で成功しましたが、そのまま中国に移植すれば、問題が出る可能性があります。なぜなら、それは主に精神面の激励で、物的奨励をしないからです。現在の中国では、物的奨励をしなければできるわけはありません。もうひとつの違いは、あめーばは基本的に三角形の構造で、部下は上司に従うが、われわれの人単合一モデルは直接にマーケットに面しています。p.141

同社は、管理会計では、財務諸表を使わず、代わりに損益表(Sǔnyì biǎo)、日清表(rì qīng biǎo)、人酬表(rén chóu biǎo)を自主経営体ごとに計算している。

損益表における収入は、一派ね機内水戸変わらないが、利益は違う。顧客にために創出した価値から得た利益を指す。

日清表は、毎日の仕事の内容を予算の形で計上し、その予算を使ってどれくらいの仕事をしたかをチェックするもの。

人酬表は、顧客のために創出した価値によって報酬を計算するために作成する。

このピューティングの発達によって、こうした小さな単位の管理会計が簡単にできるようになり、組織の在り方や、企業行動まで変えているのですね。sろえがアジアからも始まっているのが新鮮です。

同社は、「相馬はやめて、競馬をさせよ」という考えに基づき、選抜制度を導入しています。ポストを公開して、人材を募集。筆記試験、”選挙演説”、投票というプロセスは、科挙の伝統(能力主義の登用)を感じさせます。

最終章は、3人の鼎談。西洋における戦略はサイエンスであるのに対し、アジアはアート。

アメリカ人はサイエンスとして戦略を策定するから、分析は精緻にやるのですが、「この事業は何のためか」という肝心の目的がすっぽり抜け落ちてしまう。アジアはその点、アートですから「この事業は何のためか」を常に意識している。(中略)
 相手を完膚なきまでやっつけるための方法論が欧米の戦略論には欠かれていますが、アジアは違うんです。たとえば、『孫子』の本質は「戦わずして勝つ」です。欧米の人々に言わせれば、これは戦略論ではない p.192

というわけで、本書も、サイエンスとして経営を分析している度合いが低く、データの蓄積が十分ではないと思います。しかし、これから、アジアに展開する企業が増える訳で大いに参考になるでしょう。

では。