小林秀雄 新潮社 2004年7月
『私塾のすすめ』で梅田さんが座右の書に挙げていたので、読んでみました。絵のどこが面白いのかと思っていた梅田さんがその面白さをしったのが、この作品でした。ネットのどこが面白いのかと思っている人向けに梅田さんが書いたのが『ウェブ時代を行く』でした。
私は、世界の4大美術館制覇などと悦に入っていたのですが、絵のことはまるでわかっていませんでした。さすが、小林秀雄と思うのですが、そこまで難しく考えなくても、絵は楽しめるとも思いますね。
圧倒されるのは、当時のヨーロッパの思想家と芸術家との交流あるいは、影響が調べ上げられていることです。やはり、時代の先が見える人たちは、お互い引き寄せ合っていたのでしょうか。その相互の影響(あるいは排除)を知るのも面白いですし、また、その全体を俯瞰する著者の思いを楽しむこともできました。たとえば、ゴッホについての章では理想について語っていますp.93
所謂理想家は、自分の身丈に合わせた、恰好な理想を捕らえるもんだが、そういう理想ほど、ゴッホに遠いものはなかった。寧ろ、理想が彼を捕え、彼を食い尽くしたのである。理想に捕らえられ、のたれ死にまでいったトルストイは、理想の恐ろしさをよく知っていた。彼の定義に従えば、理想とは達することの出来ぬものだ、(中略)スピノザも亦、別の言葉で理想を同じ様に定義している。「神を愛するものは、神から報酬を期待することは出来ない」
ゴッホについては、書簡を読み込み、深い理解を示しています。
ゴッホは、27歳の時まで、一度も画家になろうなどと思った事はなかった。画家生活と言っても、弟を除いた誰も彼を画家とは認めなかったし、絵の一枚も売れない絵かきを、職業画家とも言えぬわけだが、そういう画家生活も、十年しかなかったのであり、その三分の二は、独学による暗中模索である。後世を驚かす様な絵を描いた期間は、僅か三年。これだけでも、かなり異様なことである。
このような形で、様々な角度から画家に光をあて、絵画の奥行きを示してくれます。また、美術館に行ってみたくなりました。
では。