ローマ人の物語14-16 パクス・ロマーナ
塩野 七生 新潮文庫 2004/10
アウグストゥスの物語。改めて、政治とは何かを考えさせてくれる3冊。武力、税制、戦争の始め方、終え方、公共工事などなど。言葉の重さもその一つ。
元老院から『国家の父』の称号を送られた時の返答の解説は、No.16 p.32。
アウグストスは、わたしの望みのすべて、とだけ言ったのであって、その望みなるものが何であるかには言及していない。ゆえに、人によってそれぞれの解釈が可能になるというわけだ。
共和政主義者なら、共和政体復活
帝政に賛同する者は、帝政への移行
政体に関心のない者は、平和の確立
とそれぞれが受け止めたのだとか。政治には、これぐらいの深慮がいるんですね。
私や妻が関係していたということになれば、首相も国会議員も辞める
とか言ったばかりに、1年以上停滞を招いてしまった日本も学ぶところがあります。
アウグストゥスの遺言は、p.117。首都に住む全市民に遺贈するだけでなく、近衛軍団、警察官、全軍団(15万人)にも遺贈。
皇帝の遺言というよりも会計士の報告を聴くようで、このような人を夫にもった妻は、詳細きわまる家計簿を求められたであろうと想像したら、微苦笑をとめろとができなかった。だが、大帝国の運営とて、どんぶり勘定でやっていては永続は望めないのである。(中略)律儀で細かいことにまで気を配る人であったローマ帝国初代の皇帝は、法とは、誰よりも上に立つ者が守ってこそ、下にある者にも強いることができるのを知っていた。p.118
これもまた、国家の財政を預かるトップが、セクハラで更迭されようかという国には耳の痛い話なのでした。
アウグストゥスに対する評価は、下記のとおり。
『ローマ帝国衰亡史』を書いたギボン以降、欧米の歴史家たちの古代ローマへの評価、一言で要約すれば、共和制時代は尊敬に値するが、帝政時代に入るや堕落が始まる、というものであった。現代の研究者の間ではそうでもなくなりつつあるが、教諭や楽しみとして歴史に親しむ人々を対象とした歴史著作では、右のような評価が支配的で有り続けたのである。
トインビーですら、アウグストゥスの業績は、ローマの衰亡を先に延ばしただけである、と言っている。
盛者必衰は歴史の理と思う私には、もしもそうであったとしてもそれで十分ではないか、ましてや「先に延ばした」歳月ならば数百年に及んだのだから、満足してしかるべき p.119
歴史に対する評価は様々です。