【本】エコノミストたちの栄光と挫折

エコノミストたちの栄光と挫折 ─路地裏の経済学・最終章─
竹内宏 東洋経済 2008/9 

竹内先輩の最新作。「路地裏の経済学・最終章」とあるように、これまでの人生を振り返った本になっています。

長銀に関する本は、何冊も出ましたが、学者が書いたものは遠すぎ、経営に近い人のものは近すぎで全体像が見えにくいところがありました。調査部が、ちょうどよい距離なのだと思います。300ページほどの本なのですが、読むのに時間をかけてしまいました。

私の人生は長銀調査部そのものだった。p.321

とあるように、長銀調査部の歴史を縦糸とし、その時代のエコノミストの活躍を横糸として、日本経済を振り返っています。日本の産業構造の変化に応じて、銀行調査部のあり方が変わるのがよくわかりました。先日ご紹介した「下村治」 は、戦後経済史として読めたのですが、本書では、どうしても長銀の経営問題のことを考えてしまいます。バブル期に、長銀が投資銀行へと舵を切り、調査部は総研となって、本体から切り離されたのがその象徴です。

85年の第5次長期経営計画では、国際・証券業務を最重要業務にすることが決められます。(p.222あたり)この結果、優れた管理者は、国際や証券部門に投入され、調査部の長銀内における地位は低下します。長銀存続の鍵は、証券業への参入にかかっており、大蔵省への陳情が、最優先課題となります。

かつての調査部は日本経済の発展を論じたが、この頃から、長銀の存続のための小さな理屈を研究することが重要な仕事になった。p.224

このあたりは、以前ご紹介した『水上萬里夫オーラル・ヒストリー』とあわせて読むと興味深いです。

その結果、調査部の予測→長銀の経営計画という流れはなくなりました。

若手の臼杵政治が、90年に「資産価格の下落と金融機関」という社内レポートで、「不良資産が急増して、まもなく、銀行は経営危機に陥る」と述べた。(中略)

 最悪の場合には、都市銀行と長信銀の損失合計は40兆円に達し、含み資産のすべてを吐き出しても、自己資本比率が4%以下に落ち込む。それはBIS規制の8%を相当下回るからほとんどすべての大銀行はBIS規制によって国際業務が不可能になる。自己資本を増やすためには増資が必要であるが、深刻な不況の中では企業は増資に応じてくれないから、自己資本比率の分母に含まれる貸付金を削減しなければならない。p.269

この「調査特報」は、90/12に社内に配布されましたが、調査部は悲観論が好きだと批評されただけに終わりました。調査は調査、企画とは別物になっていたんですね。

長銀調査部は塩漬け組を作ったから成功したが、最後の段階になって、実はそれが欠陥だったことが判明した。p.271

麻生総理は、「日本の経験を話す」のだそうですが、そう簡単に総括できるものでもないですね。

では。