エドワード・ルトワック 文春新書 2017/4
『中国4.0』の著者へのインタビューをまとめたもの。本書は、中国のみならず、世界の軍事情勢を俯瞰できます。表題は、戦争を生み出すのは平和であり、平和をもたらすのも戦争という主張から来ています。
相変わらずcontrovertial ですが、議論は正確です。たとえば、(軍事)訓練と演習の違い。p.70
「訓練」とは「一人の人間を一人前の兵士にするまでのプロセス」を指す。戦場で武器や通信機器を自在に使えるようになるまで徹底的に教えることである。そして、「新米兵士の集団を、戦闘が可能な真の『兵士』にする」ために必要となるのが、「演習」だ。
日本には、演習が欠けていると指摘しています。中国の厄介な問題は、p.84。
中国は、隣国を完全に見誤る伝統を持っている点だ。2014年に置きたベトナム沖の海底油田をめぐる事件が、その典型である。
当時の中国は、船の数で圧倒すれば、ベトナム側は引き下がる、と考えた。ところが、実際には、戦いは、海から陸に写り、中国人の旅行者や商店に対する暴動や焼き討ちが起こり、中国側は、ベトナム沖の海底油田からの撤退を余儀なくされた。(中略)
ベトナムという隣国をこれほど完全に見誤るというのは、あってはならないことだ。
この原因の一つに、組織的欠陥があると指摘。p.87
外交部が報告するのは、国家運営委員会だが、実際に物事を決定するのは、中国共産党の最高意思決定機関である中央政治局常務委員会だ。
加えて、中国の首脳陣の言動をロシアとの対比で指摘。p.96
中国のように「尖閣だ、尖閣だ」と叫んでおきながら何もしないようなことは、ロシアは決してしない。ロシア人は、言葉の重みのないリーダーを軽蔑するからだ。
北朝鮮については、p.110。
北朝鮮は、人口衛星を打ち上げ、中距離弾道ミサイルも発射した。さらに弾道ミサイルを潜水艦からもはっしゃしているのだ。ミサイルに搭載可能な核弾頭の爆発実験も成功させた、と見られている。
しかもこれらすべてを、彼らは非常に少ない予算で短期間に実現しているのだ。
日本政府が同じことをしようとしても、
年間の国防費以上の予算と、調査、研究、開発に15年ほどの時間が必要になるだろう。
と指摘しています。情勢分析だけでなく、戦略論も収録されてました。パラドキシカル・ロジック、p.126
大国は、中規模国は、打倒できるが、小国は打倒できない。小国は、常に同盟国を持っているからだ。
戦略の重要性は、p.134。
「戦略」において、「常識」は敵であり、「通常の人間的な感覚」は敵であり、唯一のみかたは「紛争の冷酷なロジック」なのである。
Decipline の重要性は、p.135。ドイツの失敗に言及しています。
1890年代のドイツの大学は、どの国より進んでおり、イギリスのオックスフォード大学の学生は、あらゆる学科を学ぶ前に、ドイツ語を学ばなければならなかった。しかも、古典を学ぶには、ギリシャ語やラテン語の前に、ドイツ語を学ぶ必要があった。ギリシャ語やラテン語の教科書を執筆していたのがドイツ人で、中身はドイツ語で書かれていたからである。ちなみに、1905年当時のイギリスで、ドイツ語を学ばずに終了できた学科は、英文学だけであった。(中略)
産業界も同様だ。ドイツのシーメンス社は、イギリスのどの企業をも遥かに越える技術力を持っていた。ドイツ銀行も、世界最大であった。
したがって、1900年の時点で、「今から20年後の世界はどうなる?」と人々に尋ねれば、「ドイツが世界を支配している」と答える人が大半だったのだ。
ところが、実際はどうなったのか。1920年のドイツは、敗戦で国土が荒廃して貧困にあえぐ国になり、それ以降の30年もの間、戦争の影響を被ることになったのである。
その理由は、領土を手に入れるために、世界を敵に回してしまったことだ。中国も同じ轍を踏んでいると指摘しています。p.136
一方、イギリスには、忍耐力(Decipline)がありました。独立主義者のアメリカと妥協し、フランスとの17件の紛争を全て譲歩。嫌々ながら、ロシアと組みました。
国民に痛烈に批判されながらも、英外務省は、屈辱に耐えたのである。p.138
イギリスがどうしてこのような忍耐力を身に着けたかとい分析は、p.148。
ラグビーやウォール・ゲームといったスポーツを通じて、貴族は暴力というものを学ぶ。
日本についてはp.146
1941年に戦争を始めた時点で、同盟国を持っていなかった。日独伊三国同盟は存在していたが、これは名ばかりの同盟関係だ。たとえば、ドイツは、軍を太平洋にまで派遣できなかったし、日本がドイツから獲得できたのは、せいぜいBMWの試作品のエンジン、わずかな近海、それに天然ゴムぐらいだ。
では。