【本】カルロス・ゴーンの経営論

カルロス・ゴーンの経営論

公益財団法人日産財団 日本経済新聞出版社 2017/2

企業の幹部候補生を対象にした「逆風下のリーダーシップ養成講座」のQ&A、「ゴーンセッション」を再構成。早稲田の教授が理論的な合いの手を入れているので、ただのドキュメントで終わらずに済んでいます。

海外展開する企業が増え、ローカル幹部の育成が経営課題に挙がってきています。ゴーン会長は、特別なことを言っているわけではないのですが、説得力が違います。今は、この「教祖」から多くのことを吸収すればよいのだと思います。

グローバルリーダーについては、p.50

グローバル/リーダーシップは、国内リーダーシップよりもはるかに複雑であることが明らかになってきました(Weber et al. 1998)

オスランド&バード (2006)

グローバルリーダーシップと伝統的リーダーシップの相違は、異なる文化を超えた接続性(Connectedness)、境界超越(boundary spannig)、複雑性(complexity)、倫理的課題(ethical challenge)、緊張(tension)や矛盾(paradox)への対応、パターン認識、学習し続ける環境や共同体の構築、そして大規模な変革の主導--といった問題の程度に起因するとしています。

Global Leadership and Organizational Behavior Effectivenessのまとめたリーダーシップの型は、p.53

  1. カリスマ/トランスフォーメーション型
  2. チーム指向型
  3. 参加型
  4. 人間指向型
  5. 自律型
  6. 自己防衛型
    地位の強化と面目を保つことで、個人とグループの安心安全を確保するリーダーシップ。

それぞれの文化圏で、どのリーダーシップが受け入れられるかがp.55の表にまとめられています。アングロサクソンが、カリスマ型を好むのに、対し、中東や儒教圏アジアが自己防衛型を好むのが印象的です。家族類型で分類したらどうなるか興味深いところです。

意思決定については、p.73

決してすべての決断が正しいということにはなりません。ですので、ほとんどの決断が正しいということを目指せばいいのです。

誤りを素直に認めるというのも、リーダーの資質ですね。

現状認識については、ゴーン会長が日産に着任した時のエピソード。

従業員の数でさえ、日産に来たばかりの私が「何人いるので」と質問すると、数値がころころと変わっていき、ちゃんと把握できるまでに2ヶ月もかかりました。(中略) 車種ごとの利益率や、特定の市場の利益率といった数値を把握することはできなかったのです。

ただ長く勤務しているだけでは、会社についてりかいできないと指摘。

自分の会社がどのようなものかを知るには、自分があえて快適な居場所から抜け出して苦労をしたり、危機的な状況に対応したり、課題を解決したりと、様々な経験を重ねていく必要があります。p.76

日産の志賀俊之副会長のコメントも、ゴーン会長のリーダーシップを理解するのに参考になりました。

意思決定が思慮深いながらも大胆であり、その背景には揺るぎない本質と大義が常に存在する。そして、経営手法はきわめて基本に忠実である p.236

「思慮深い」という例としては、いきなり自分で決めてしまわずに、まず、口に出してみる。周囲の反応を確かめながら拙速な判断を避けています。

「基本に忠実」という例としては、TQMの手法を経営に取り入れています。

月ごとに限界値を超えたかどうかを確認して、超えられないと「赤フラッグ」が立ち、目標未達成が3ヶ月連続で続くと、マネジメント層が対策を打ちます。p.248

アタリマエのことを着実に実施するのですね。

では。