【本】イギリス人アナリストだからわかった日本の強み弱み

イギリス人アナリストだからわかった日本の「強み」「弱み」
デービッド アトキンソン 講談社 (2015/6)

元ゴールドマン・サックスのアナリストによる日本分析。メディア日本礼賛に対して、冷静な分析を呼びかけています。

議論は人口動態から始まります。

じつは、一億人の人口を超えている12カ国の中で、先進国になっているのは2カ国のみです。それは、アメリカと日本だけです。p.29

参考:Wikipedia「国の人口順リスト

勤勉だとか、独自の文化とかいう日本人論と距離を置き、こうしたデータを追っています。戦後の日本の経済成長も、PPPベースの実質GDPを引用し、

じつは日本は1939年に、すでに世界6位だということがわかります。p.36

と延べ、日本の経済成長に人口増加が果たした役割を指摘しています。

一方、著者は日本企業を経営しており、日本の強みとして、

会社員の人たちが、スポットライトを浴びるような華やかなポジションではなくて、地味な単純作業なのにもかかわらず、花型部門の仕事と同様に、真面目にこつこつと職務をこなしている姿には、いつも感銘を覚えます。p.32

とも言っており、これまでの日本人論について、バランスのとれた分析をしています。

一方弱みは、労働生産性の低さを指摘。

日本の仕事の進め方があまり「効率が良くない」というのは、一人ひとりの日本人労働者やビジネスマンたちに原因があるのではなく、経営者などのリーダーにある可能性が極めて高いのです。p68

その例とされているのが銀行の役員。

 彼らは平社員よりもかなり遅めに銀行員にやってきます。「重役出勤」という言葉そのままに、昔だったらお昼前くらいまで顔を出さない人も大勢いました。

銀行に来たら北で「役員会議」という何も決められない会議に顔を出して、難しそうな顔をしてただ座っているだけ。

午後になると、挨拶だ何だといろいろな理由をつけて運転手付きのハイヤーで出かけて、そのまま接待で夜の街に消えていく。p.68

興銀頭取との会話は、こちら。

 外国人であるあなたにはわからないかもしれないが、この興銀の廊下の壁から、これまで日本経済を支えてきた産業界、経済界の人々のパワーがでている。それが利益に反映されていないだえだということが、株が高い理由です。p.72

同様に、日本経営者の数字軽視も指摘。

日本の経営さはこのように「数字」とはかけ離れた「プロセス」をどう評価するのかということに重きを置く傾向がある、ということです。p.73

東芝事件を鑑みると、未だに笑えません。生産性の低さとして著者が指摘するのが、「面倒臭い」の意識。

 日本の「効率が良くない」というものの問題を辿っていくと、かなりの部分はこの「面倒くさい」という言葉に帰結する感じがします。p.91

著者は、イギリスの諺(ことわざ)を引用しながら、面倒を解決するのが仕事 という、極めて真っ当な点を指摘しています。

Sticks and stones may break my bones, but words will never hurt me. p.94

問題解決力の低さの他の要因は、男社会と、”woolly thinking”

 Wooly thinkingとは、直訳すると、「羊毛みたいにふわっとした思考」、意訳すれば散漫な思考となります。
woolly thinkingによって、しなければならない改革のために必要な、インテレによる議論の焦点が決まらず、問題の本質の特定自体もはっきりしないので、いつまでたってもその議論がまとまらず、そのために社会が進歩せずに。いつも表面化した問題の事後処理をするだけになってしまう傾向が強くなるのです。p.120


安保法案に当てはまりそうですね。
人口減少社会を迎えるこれからの日本社会の対策を考えるには、こうした外部からの目を大切にしなければと思いました。

では。