吉村昭 新潮文庫 2009/11
戦艦武蔵の記録小説。初出1966年。平成21年の70刷を読みました。様々な教訓が得られます。
戦艦建造は、当時の最高軍事機密。これを守るために厳重な管理体制を敷きました。建造時には棕櫚(しゅろ)のスダレを作り、周囲を覆いました。従業員からは、守秘義務の誓約書をとり、周辺から見られないように、警察、軍が連携して、警戒にあたりました。
それでも、設計図面が1枚紛失するという事件起こり、被疑者は厳しい取り調べにあっています。
若い工員がガントリー・クレーンの長さから、艦全体の長さを計算。屋台で酔っぱらって口を滑らせたために、翌日特高に逮捕されたなんていうエピソードも。
情報統制も徹底しており、進水時には狭い長崎港内の水位が一気に上昇。周辺の住宅に浸水したにもかかわらず、住民は何が起こってるか知らされていませんでした。結果、アメリカは終戦時までその詳細を知ることはありませんでした。
圧倒的なモノヅクリ力も感じます。世界最大の戦艦を造り上げる造船技術。設計力もさることながら、度重なる修正に対応して、最短の納期で完成させてしまう現場力。当時の人々の貧しさからすれば、資材調達だけでも大変だったと思うのですが、現場の知恵で対応してしまうところは、今の自動車産業の源流を感じます。
そして、思考停止。他の書籍でも触れられてますが、航空戦の時代が来たことを、真珠湾攻撃で自ら示したにもかかわらず、巨艦主義から方向転換に時間がかかってしまいました。3番艦、4番艦は、空母に変更されますが、時既に遅し。大和、武蔵も活躍することなく、撃沈されてしまいます。
直系家族的な文化を持つ組織が、学習し続けるのがいかに難しか。今年の夏も反芻しています。