【本】日本軍の教訓

日本軍の教訓 (PHP文庫)

日下公人 PHP研究所 (2005/9)

日下先輩の組織論。東南アジアでビジネスをしていると、日本軍から学ぶことが多い。企業は記録に残していないが、軍の行動は、記録に残っているのです。

私が知らなかったのは、建制。

  • 「制度を建てる」ということにある。制度を建てて、そこに人を組み込むこと意味する。p.6

少なくとも、戦前は自分で建制していました。戦後の会社組織の多くが、日本軍の組織の影響を受けています。軍の組織は、Wikipedia参照。英訳は、以下のとおり。

  • 総軍
  • 軍集団
  • 軍  Army
  • 軍団 Army corps
  • 師団 Division
  • 旅団 Brigade
  • 連隊 Regiment
  • 大隊 Battalion
  • 中隊 Company / troop
  • 小隊 Platoon
  • 分隊 Squad
  • 班  Team

建制を変えるということは、悪く言えば”制度いじり”だが、日本軍の制度いじりは屋上に屋を重ねるようなことが多くて、現場の改善を考えるのは後回しだった。この前の戦争では、だいたい3年くらいずつ何でも後手にまわっている。p.19

建制の意味がわかる例として、戦後の捕虜の扱いを取り上げている。建制を残したのが、ソ連と中国。シベリアで鉄道を作ったり、南京で運河を綺麗にしたりした。建制を崩したのがアメリカ。秩序が乱れ、捕虜のなかでヤクザの親分のような人間が自然発生。欧米人が捕虜になった場合は、直ちに「建制」して収容所長に意見するとのこと。

「建制を崩すな」というのが軍隊の鉄則。だが、周辺の条件が変化したときは臨機応変でなかればならないp.53

組織が大きくなると、組織のための仕事が増える事例として、当番兵が挙げられている。p.31 将校一人に、一人いて、身の回りの世話をしたらしい。組織の私物化は、現代企業も笑えない。

昭和の陸軍に下克上がはびこっていたことも指摘されている。「軍隊の中心は中佐・少佐」であったようで、35~45歳の人たちが、組織の行く末を心配する構図は、いまの企業にも共通している。

第2章は、参謀本部

日本軍のエリート作戦参謀たちの最大の過ちは、現場を知らず、机上で戦争を指導していたことである。p.63

その原因も組織の問題が。

陸大での試験の答案では、教官好みの勇ましい文章を書く学生の成績が高く評価された。p.63

辻政信の批判が続くが、シンガポールの下りをメモ。

 抗日華僑は市民の有志で、彼らは対日戦に参加すべく英軍に編入を申し出たが断れたにもかかわらず、勝手にジョホール・バルの海浜で戦ったのだから、それはゲリラとしてその場で射殺されるべき存在だった。ただし、その後シンガポール市内に逃げ込んでいるのをわざわざ探し出して処断したのは、やりすぎともいえる。それから人数が多かったのは、中国人同士が互いに密告したり証言したりしたためで、中国人はそれを隠すために日本軍の残虐性を言い立てている。p.75

第3章は、トップマネジメント

陸大、海大での「ごますり答案」問題を論じています。

戦略とは、「ある目的に照らして、どの戦術を選択するか」ということで、戦術とは「ある局面の戦い方」を指す。(中略)政治上の要請により戦略が決まり、それによって、どんな戦術を採るかが決まる。さらに戦術が決まれば、それにふさわしい戦闘の方法や武器が決まってくる。それに従い、今度は兵隊の訓練方法、国民あるいは世界各国への「戦争の大義名分」の説明方法などを決め、最終的に開戦時期と場所を選ぶことになる。p.90

陸大・海大が戦術教育に留まり、トップの育成には不十分であったことを指摘。当時の教育が、主力艦の砲撃中心で、航空機の活用に思いが至らなかったのは、現代でいえば、ITの活用ができずに人海戦術に頼る企業とも言えようか。

第5章では、教訓をまとめている。環境の変化についていけなかった例として、空冷エンジン導入が遅れた理由を設計者の土井武夫は、

ハ140の改善に涙ぐましい努力をしてる明石工場のことを考えると言い出す勇気がなかった。今から考えると人情に溺れていたというものであろうか。p.157

と答えている。

国際情勢については、

どの国も国内に問題を抱えている。自由化と民主化が進めば、必ずそうなる。しかし、支配者層はいつでもどこでも誰でも、自分がいちばんかわいいから、そんな支配層では国内問題の解決はできない。そこで外遊する。そこで外交をする。なるべく派手に演技してテレビに映るようにする。そして時間を稼ぐ。問題解決のツケをなるべく外国にまわす。(中略)あまり深刻な国際問題はないのである。p.163

ただ、日本人の楽観的な気質は諌めている。

だいいち、日本語の「潔く」という言葉自体が、英語にはない。私は以前、渡部昇一氏に「『潔く』にあたる英語はありますか?」と聞いたことがある。すると渡部氏は、「百年ぐらい前は『マンリー』(現代英語では「男らしく」という意味)があったが、いまはありませんね」と答えた。 p.181


もっと、したたかな外交を展開しないといけませんね。

では。