【本】「ドイツ帝国」が世界を破滅させる

Tod「ドイツ帝国」が世界を破滅させる 日本人への警告

エマニュエル・トッド 文春新書 2015/5

トッド教授の最新作。欧州の問題をを家族類型の視点から分析しています。基本的な考え方は、以前、ブログでご紹介したとおりです。

ウクライナ危機などすべての問題を「ドイツ帝国」で分析してしまうのは無理があると思いますが、家族類型を元にした価値観の違いを埋めきれていないのは事実かと思います。ギリシャ危機も、家族類型から分析した以下のコメントが印象的でした。

どうしてドイツ人は、フランス人が拒否するもの、経済の引き締めや緊縮財政を受け入れるのですか?

 そうした規律と上下関係という価値が浸透しているがゆえに、ドイツでは人びとが競争的なインフレ抑制策を受け容れたのです。個々人をかつては家族に、今日では集団に組み込むそうした価値のおかげで、国全体として経営戦略を一致協力して合議するほどにまで組織された経営者団体も現れてくることができたのです。p.160

そのドイツと日本の比較は、以下のとおり。

日本社会とドイツ社会は、元来の家族構造も似ており、経済面でも非常に類似しています。産業力が逞しく、貿易収支が黒字だということですね。差異もあります。
日本の文化が他人を傷つけないようにする、遠慮するという願望に取り憑かれているのに対し、ドイツ文化はむき出しの率直さを価値付けます。p.157

ギリシャ問題にしても、無意識にドイツ的な視点で報道してしまう日本のメディアを客観視できますね。

ネオリベラリズムの修正方法の違いについては、こちら。

 最近日本に行き、津波で荒らされた地域を訪れた折でした。日本の伝統的社会文化の中心を成すさまざまなグループーーー共同体、会社などーーーの間の水平連帯関係が、自体に対応できなくなった政治制度に変わって地域の再建・復興を支えていたのです。
ドイツに比べ、日本では権威がより分散的で、つねに垂直的であるとは限らず、より慇懃でもあります。p.161

企業経営についても、こうした文化の違いを踏まえて、制度設計をするのが重要と考えます。
では。