家族類型からみたEUの行方

EUからみれば、2021年は、アングロサクソンからの別れの年になりそうだ。年初のブレクジットに続いて、アメリカがアフガニスタンから撤退した。NATO軍としてアフガニスタンに20年アメリカに付き合ったが、オランダは関係者を退避させる前に米軍が撤退してしまった。同盟の変質を実感するのに十分なできごとだった。

家族類型別に、EUのGDPを見てみよう。

 冷戦というのは、絶対核家族(黄)対 共同体家族(灰)だった。絶対核家族は権威をみとめず、格差容認。共同体家族は真逆で、権威を認め、結果平等。両者が折り合うわけもなかった。ソ連崩壊で毛着がついた後、両者の対立は、深刻にはならなかった。権威主義的なハンガリーが、反LGBTQ法を制定。オランダが反発しているが、EUの中ではマイナー・プレーヤー。

 絶対核家族(黄色)のイギリスが抜け、平等核家族(青)vs.直系家族(赤)の対立が鮮明になった。これまでイギリス(アメリカ)がいたおかげで、微妙なバランスが取れていたこともあったが、今後は、価値観の対立が鮮明になることもありうる。権威を認めず、個々人を平等に扱うフランスは、権威を認め、不平等を容認するドイツと基本的な価値観で折り合えない。これまでEUがまとまっていたのは、2度の敗戦でドイツに節制があったからだ。

 今の所、ドイツの総選挙では、左翼が得票を伸ばし、即座に対立が表面化することはなさそうだ。しかし、メルケル首相ほどのリーダーシップも期待できない。何を決めるにせよ、いまより時間が長くかかることを覚悟しないといけない。

 域内の団結を高める容易な方法は、外敵を作ることだ。ロシアや中国への対決姿勢を強めることがあれば、それは域内の団結力の低下の裏返しかもしれない。

 欧州情勢の把握は、ますます難しくなるだろう。オランダの図書館からも、イギリスの新聞が消えた。小さな変化だが、米英の重しが取れた欧州は、自国語で考え、主張するようになると予測。

 アメリカは世界の警察官の仕事を辞めたが、欧州の難民問題が限界を超えた時、欧州も「世界の人権弁護士」を辞める誘惑に駆られるはずだ。踏みとどまるように説得するリーダーがドイツに現れるかに注目している。