EMBRACING DEFEAT Japan in the Wake of World War II by John W. Dower 岩波書店 2004/1
終戦から独立までの日本を描き出したピュリッツァー賞受賞作品。被災後の日本と比較すると、いくつかヒントをもらえました。戦後といえば、価値観の転換。p.210に桃太郎の例が出ています。戦前は、戦意高揚に使われていました。戦後は宝物を平等に分配する物語と変わります。
焦点は、民主主義化。吉田首相の言葉がp.61にあります。
あんたがたは日本を民主主義の国にできると思っているのかね。私はそうは思わんね。
ところが、国民は新たな憲法を大歓迎。
この革命は日本人の希望に火をつけ、日本人の想像力を刺激した。アメリカ流の処方箋によって、かつてなかったほどの個人の自由と、予期できなかったほどのいろいろな民衆的表現が花開き、古い日本社会の権威主義的な構造が壊れて、ぱっくりと新しい出口が開かれたのであった。p.87
第3章は、虚脱。15年の戦争に全身全霊を捧げ、一億が集団自殺しようとしていた後の敗戦。興味深いのは、東京大空襲の被害を天皇が視察した時に、虚脱が観察されていることです。p.93
心理的な落ち込みに加えて、経済的な苦境が淡々と描かれています。政府が物価を統制していた市場における卸売物価指数の上昇率は、下図の通りp.126
右肩下がりで喜んでいる場合ではなく、4年間に渡って100%を超える上昇率になっています。太平洋戦争(3年8ヶ月)よりも長い期間です。
1946年7月の公定価格では米一升が2円70線で合ったが、1950年3月までには62円30銭になっていた。
23倍です。今で言えば、10kg3千円の米が、69千円になるようなものでしょうか。とても買えません。これは「公定」価格です。
降伏から半年間の闇価格は、同一品目の比較で公定価格の34倍であった。p.127
この虚脱の影響を文化も受けます。本書は、統計からというよりも、一般市民の声の分析が特徴になっていますが、それが出るのが、売春婦の世界。バンザイ攻撃をする国が瞬時に切り替わるさまは、不思議ではあります。
そんなカオス状況の日本を統治したのは、マッカーサー元帥。
マッカーサーと2回以上話した日本人はたった16名しかいなかった。p.246
と、日本人との接触を最小限に保っているのが印象的です。今の北朝鮮を笑えません。
本書を通じて戦後を見てくると、究極の状況に置かれると、日本人の性格のようなものを感じます。
- 上からの改革に抵抗を感じない
- 政権中枢と民衆とはギャップがある
- カリスマに弱い
- 復興は基本的な欲求から
食べること、稼ぐこと、結婚すること(戦後はお見合いブーム)
今の婚活ブームも、偶然ではないように思えてきました。
では。