大前研一 朝日新聞出版 2011/11
3.11 は大前さんも変えてしまいました。日本政府に対する厳しい記述は、一読の価値アリです。
昨年は、政府の優劣が自分の人生を直撃するのを実感した年でした。本書前半は、震災対応を誤った政府への厳しい批判です。原発事故をめぐる大本営発表。警戒区域の指定の誤り。ヘリコプターによる原発への放水作業。農産物を県単位で出荷停止。浜岡原発停止。最近の大前本ではないほどの怒りに溢れております。
というか、これは、本来メディアがその場で指摘すべきことすね。事故当時は、危機感だけ煽られて、こうした本質的な批判をメディアから得られませんでした。
その後の海外からの風評被害については、そういうことをしてきたのは日本だと指摘しています。重たいですね。
生産量に対する農薬の使用量がダントツの世界一は日本である。日本でもてはやされている無農薬野菜にしても、流通している無農薬野菜の多くは農薬指定されていない他の薬品を使って栽培しているに過ぎない。p.40
批判は政治にとどまりません。第2章では、過去の延長でしか考えない官僚。知の衰退が進む国民も批判しています。
今の40代を中心とした偏差値世代と話をしていていつも感じるのは、非常に従順で小市民的だということだ。(中略) 子どものころから「偏差値が高い=頭がいい」と植えつけられているからその発想から抜け出せない。 p.83
片道1時間20分もかかる所に6千万円で購入した家のローンがまだ5千万円残っているのに、資産価値は3千万円。実質2千万円の債務超過のサラリーマンが45歳を中心に700万人いる。日本に元気がないのは当たり前と喝破。p.113
勝ち組になる法則は、
自分のやりたいことを見つけ、どうしたらできるかを考え、そのためにひたすら努力し続ける。 p.82
江戸、明治、戦時の負債と訣別し、ゼロベースの改革を断行せよと述べています。このあたりはこれまでの本の主張と同じです。第5章の小さな勝利を積み重ねるというのが、新しいところでしょうか。ロシアの限界と韓国の特区の成功を対照させながら、日本に第一歩を踏み出せと述べています。
新・国富論(1986)から読み続けてはや四半世紀。大前さんの言ってることが変わらないと言う停滞ぶりに、しばし呆然します。債務超過で元気のない偏差値世代の責任は重いですね。