【本】米国製エリートは本当にすごいのか?

米国製エリートは本当にすごいのか?
佐々木 紀彦 東洋経済新報社 2011/7

東洋経済の記者によるスタンフォード大での留学レポート。日米の高等教育の意義について考えなおすことができます。

冒頭は、勝海舟の言葉。

アメリカは日本とさかさまでございます。偉い人が賢うございます。

江戸時代の言葉ながら、東京電力を観ていると、いまも笑えません。エリート教育の重要性は、塩野七生さんの言葉に象徴されています。p.102

人間を「刺激を与えるだけで能力を発揮するタイプ」「安定を保証すれば能力を発揮するタイプ」「刺激を与えても安定を保証しても成果を出すことのできないタイプ」の三種類に分類し、歴史上うまくいった国家は、それぞれの比率が2割、7割り、1割だった

日本は、真ん中のタイプに教育の照準があっており、最初のタイプを徹底的に鍛えるのが米国製エリート教育と理解しました。
インターネットの発達によって、アメリカの大学の授業は日本にいながら観ることができるようになりました。しかし、アメリカの大学院へはむしろ多くの人材を世界からひきつけています。この層には刺激を与えることが重要で、アメリカの大学がその場を提供しているのが理解できます。
意外だったのは、歴史教育に重きを置いていること。アメリカの歴史は浅いのですが、歴史を理解してこそ現状の分析ができるという意識が徹底しています。印象に残ったのは、アメリカの例ではないですが、こちら。p.110

(大手自動車会社のディーラーの社長が)まず見せてくれたのが、分厚い千葉県の県史でした。社長いわく、「担当地域が決まったら、その県の歴史を徹底的に勉強する。そうすれば、県の特徴や県民性がわかり、販売戦略を立てやすくなる」。

岡崎久彦さんの言葉も深みがあります。p.111

 アメリカは一つであると思うと情勢判断を間違える。固定した”米国なるもの”はない。ある人は理想主義にのっとり、ある人は現実主義にのっとった言行をとる。大まかに2つの人格が同居していて、時代の流れや政治力の分布などに応じて、どちらが強く顔をのぞかせるかが決まる。

「図表4-1 北部と何部のカルチャーの違い」も歴史を学んでこそ、現代のアメリカ政治がわかる典型だと思いました。
歴史を学ぶことは、未来を見通す助けにもなります。p.123以降、Paul L. Saffoの未来予測の3要素を紹介しています。

  • consistency
  • cycle
  • novelty

このconsistencyとcycleは歴史から学べるのですね。過去を修正し、訓練を継続するアメリカの力として、William McNamaraの11訓を引用していました。

  1. Empathize with your enemy.
  2. Rationality will not save us.
  3. There’s something beyond oneself.
  4. Maximize efficiency.
  5. Proportionality should be a guideline in war.
  6. Get the data.
  7. Belief and seeing are both often wrong.
  8. Be prepared to reexamine your reasoning.
  9. In order to do good, you may have to engage in evil.
  10. Never say never.
  11. You can’t change human nature.
左右に大きく振れながらも、議論によって自己を修正していくのがアメリカの力なのだと思いました。