城山三郎 新潮社 2008/1
昨年3月に亡くなった城山先生の遺稿。奥様との出会いから、癌で亡くなる時までの日々を綴っています。経済小説というと、色気のある場面は避けれないと思うのですが、城山先生の作品には、そういうところがなかったですね。その理由がわかった気がしました。
作家として、個人情報保護法に義憤をあらわにしていた中で、こんな純愛エッセイを書いていたのですね。城山作品といえば、『粗にして野だが卑ではない』や『落日燃ゆ』など、パブリックな精神を描いたものが多いのですが、最終的に行き着いた先は、家族、とりわけ妻であったというのは、感慨深いものがあります。
冒頭などは、『君の名は』のようです。巻末に家族の写真があるのですが、一流の作家が女性を描くうと、これほどの美人に思えるのですね(笑)。なんとも微笑ましくなりました。
内容もさることながら、実に抑えた文章で、無駄な表現がまったくありません。内容は自伝でもあるのですが、妻以外の家族には触れず、妻の姿がしっかりとイメージできるようになっています。妻の性格についても、直接的に形容するのではなく、夫婦の会話で読者に伝わるようになっています。1時間ほどで読めてしまう長さながら、奥行きのある世界を表現しており、実に見事です。「筆一本で生きる」人生を選んだことは、先生にとって男子の本懐であったのが、伝わってきました。
私も人生半ばに達し、生死について考えるようになりました。家族を持ち始めた男性にこそ、この本は、おすすめできると思います。
Amazonの書評を読む
【関連記事】
人生の流儀 (2008/ 3/28)