水上萬里夫オーラル・ヒストリー 政策研究大学院大学 2005/1
政策研究大学院大学のオーラルヒストリープロジェクトの1冊。元日本長期信用銀行副頭取の水上萬里夫(みずかみ まりお)さんへのロングインタビューです。
インタヴュアー 御厨 貴、岡崎哲二、田中隆之、横山和輝、柏谷泰隆
285ページというボリュームで、2001年9月から2002年12月にかけて、計12回のインタビューで構成されています。
戦後の日本金融史にとって、第一級の資料だと思います。長銀が国有化されて7年が経ち、ようやくこのような資料が出てきたというとこでしょうか。
今、ライブドアの事件を冷静に語ることができないように、当時、長銀のことについては冷静に語れる状況ではありませんでした。当時の役員が自ら語ることによって、あの危機の中で何がおこっていたのかが、明らかになっています。また、インタビューは、水上さんの入行当時からカバーしてますので、日本の戦後の金融史そのものともいえます。
興味深いのは、以下の3点です。
第1に、あの危機の中でも、「ポリティクス」があったということです。どこの会社で主導権争いはあると思いますが、日本企業は、こうした対立(コンフリクト)を、議論を通じて着地させることが、やはり苦手なんだなぁと感じます。Organizational Behaviorの本として読んでも面白い資料だと思います。
第2に、あれほど巨額の税金を投入する意思決定が、私的な人脈を通じて行われていたということです。当時の政界(宮沢、梶山、山崎)、官界(大蔵、日銀)、財界(銀行役員、経団連)間のコミュニケーションが、高校や大学の同窓という人脈を伝っていくのは興味深いところです。
第4回のインタビュー(P.85?)のやりとりは、非常にリアルです。当時の宮沢金融対策特別委員会委員長に、長銀からは水上さん、興銀からは中山さんが話しに行っていたんですね。次の宮沢さんの言葉が象徴的です。
日銀は、誰に話を聞けばいいか。福井さんがいなくなってから、話を聞ける人がいない。日銀は、こういう御行(長銀)の状況がわかっているのか?
また、当時の与謝野副官房長官に上原さんがアプローチしたのは、東大野球部という縁(P.102)だったりしています。
第3に、人材育成ですね。本部の力が強く、内部昇進を中心にした企業は、なかなか「プロ経営者」を育てられない。これは、銀行に限ったことではなく、どこの企業にもあることではないでしょうか。
欧米企業は、ボードに対するガバナンスでこうした問題を解決しようとしていますが、日本企業はどうでしょうか。今なお、様々な教訓を与えてくるれる資料だと思います。
では(^^)/^