巨大銀行の消滅―長銀「最期の頭取」10年目の証言
鈴木恒男 東洋経済 (2009/1)
長銀最後の頭取鈴木さんの回顧録。これまで、長銀関連の書籍は、何冊も出ましたが、当事者が10年にわたる思慮の末に記した本書は、日本金融史第一級の資料になっています(目次はこちら)。
99年に「粉飾決算・違法配当」で訴えられた長銀経営陣は、08年の最高裁判決で全員無罪が確定しました。10年の歳月がたち、ようやく当時のことを冷静に見ることができるようになってきたと思います。
34兆円の総資産(95/3)の総資産を抱えた銀行が、なぜ破綻し、巨額の国民負担を強いることになったのか。これほどの大事件が、乱脈経営のひとことで片付けられるはずはありません。
たとえば、p.46以降では、大蔵省と日銀の役割についても、触れています。
- 自己資本比率の規制は、ときに厳しすぎ、ときに緩すぎて、有効とはいえなかった
- 大蔵省検査と日銀考査の重複
- 検査で決算承認銀行とするにしても、非常時にはすべての銀行が「入院」し、機能しない
- バブル期に、日銀考査で銀行の拡大路線をけん制することは全くと言ってよいほどなかった(p.51)
- 日銀、大蔵省からの天下り監査役の存在
再びスポットライトがあたっている銀行の株式保有については、2代目の浜口頭取の言葉を引用しています。
債権者である銀行は取引先の株をもつべきでない。p.73
昭和恐慌の教訓として、債権者と株主の利益相反を根拠とした言葉です。現在、ふたたび金融恐慌の危機になると、その言葉の重みを感じることができます。
長銀国有化にあたっては、巨額の税金が使われたために、批判がなくなることはありませんが、当事者が自分が知りえたことをきちんと資料として残すということは、大切なことなのだと思いました。
将来、金融機関の経営に携わる方には、ぜひ読んでいただきたいと思います。
では。
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【参考】
・水上萬里夫オーラル・ヒストリー
・私の履歴書 宮沢喜一 (2006/4/29)