【本】松田聖子の誕生

松田聖子の誕生 若松宗雄 新潮新書 2022

 私の世代にはただ懐かしい本ですが、タレントマネジメントの参考書として読めます。
 最初に印象的なのは、カマチノリコの将来性を多くのプロが見抜けなかったこと。ミス・セブンティーンコンテスト、九州大会で優勝したにもかかわらず、芸能プロダクションの社長は、どこも引きうけませんでした。

流行歌は常に時代へのアンチテーゼであり、誰かに似た存在で過去の成功をなぞってもヒットにつあんがらないことは重々承知していた。

p.93

 著者が、サンミュージックの相澤社長に必死に依頼して引き受けてもらっています。マツダセイコになってからの稼ぎを考えると、信じられませんが、そういうものなのでしょう。

 一方、個別の才能は、その道のプロに気づいてもらっています。平尾昌晃やレコーディング担当者が、彼女の声や歌の才能に気づいています。ただ、歌のうまい人は世界にいくらでもいるわけで、最終的に売れるかどうかの見極めは総合判断です。

 プロデューサーの重要性もよくわかります。若松さんは、粘り強く家族の説得にあたっていますし、作詞家、作曲家、編曲家などのまとめやくをしなければ、あの作品群はできませんでした。誰か、ずっと見守ってくれる人は必要なのですね。

 個性を活かすというのも、ケースバイケースなのですね。赤いスイートピーで聖子がユーミンの譜割り通りに歌わなかったエピソードがあります。

楽譜では当初「はーんとーし」というふわりになっており私も何度か指摘したのだが、レコーディングの際に聖子は、何テイク録っても「はんとーし」と歌っていたのだ

p.198

「音符のお尻を叩く」なんて表現もある業界で、新人歌手が作曲家の譜割り通りに歌わなかった場合、直系家族的なノリなら、すぐに歌い直しだと思います。それを活かそうとするかどうか。

 松田聖子の会話力も、見逃せません。才能がありながら、無意識に敵を作ってしまい、プロジェクトを任されない人がどれほど多いことか。たとえば、日本語は、上下関係で話し方が変わる言語です。敬語を使い続けたら、クリエイティブな仕事はできないでしょう。一方、久々に合った先輩にいきなりタメ口ではあらぬ反発を受けます。
 知識の豊富な人は、トークが長くなりがちですし、聡明な人ほど一般の人にとっては言葉が足りなくなります。才能のある人が尖るのは問題ないですが、愛される人の方が成功する可能性が高まります。

才能のある人には、ストレッチも必要です。 

聖子が当初「若松さん、どうして私アメリカに行くんですか?」と成田で言っていたくらい海外録音に関心がなかったが、(中略)このアルバム以降、様々なチャレンジを海外でしていくことになる。

p.224

 ヒット曲の関連では、三木たかしさんの言葉が印象に残りました。

ヒット曲は”ぶざま”でないと

p.220

では。