【本】シリコンバレー最重要思想家ナヴァル・ラヴィカント

シリコンバレー最重要思想家 ナヴァル・ラヴィカント
エリック・ジョーゲンソン サンマーク出版 2022

The Almanack of Naval Ravikant: A Guide to Wealth and Happiness

シリコンバレーの起業家の日めくりカレンダー。産業の構造変化を捉え、どのように生きていくべきか、名言満載です。50代のオジサンは自分の人生の働き方についてガッカリするかもしれませんが、若い方にはオススメです。

 ラヴィカント氏は著名人なので、情報はネットでとれます。

ナヴァル・ラヴィカントのアルマナック』概要レビュー|Eric Jorgenson
エリックは、ナヴァルから得た洞察力から、『ナヴァル・ラヴィカントのアルマナック』を書くインスピレーションを得た。彼は、ナバルの考えを集め、よりわかりやすく整理して他の人に伝えようと考えたのです。

ただし、本書は絶対核家族的な価値観に貫かれています。いくら翻訳が良いからといって、直系家族的な日本でそのまま通じるものではありません。いくつか例を挙げましょう。

努力は富とはほとんど関係ない。週80時間食堂で働こうが、リッチにはなれない。リッチになるということは、「何をするか」「誰とするか」「いつするか」を理解するということなんだ。

 冒頭から重たい話ですが、これが典型的な絶対核家族的な発想で、直系家族、特に日本人からは遠い考えだと思います。興味のある方は、速水教授の「勤勉革命」を読んでみてください。江戸の日本人は、農業をするのに家畜の力に頼るのを「減らし」ました。何をするかは、農業。誰とするかはムラの人と。いつするかは四六時中働くというのが、江戸時代。今でも、長い江戸時代が続いていると考えると、いろんなことに合点がいきます。

 日本人の勤勉さは、キャッチアップの工業化の時までは有効だったのですが、平成にデジタル革命が進行すると、まるでついていけなくなりました。ナヴァル氏は「何をするか」「誰とするか」「いつするか」を極めた人なのです。

次に、自分の得意なことを見極めて、マネタイズする方法を述べています。

 世界に何が起こり、何かのスキルセットが必要になり、それを提供できるのが世界中で君だけしかいない ーーそんな瞬間を君は待っている。

 その瞬間が訪れるまでの間、ツイッターやYouTubeで、または仕事を無償で提供することによって、君というブランドを築いておこう。君の名前を売り、その過程でリスクを取るのだ。

 プログラミング、プラットフォーム化、限界利益ゼロのビジネスなどがキーワードなのですが、これまた日本人のモラルとは相容れません。「横着」と言われそうです。

 そしてとうとうその瞬間がやってきたら、レバレッジをーー最大限のレバレッジをーー効かせながら、君にしかないスキルを思う存分発揮しよう。

 人が欲しがるおもしろいものをつくれ。技を披露し、技を磨けば、しかるべき人が君を見つけてくれる。

 3つのレバレッジ(労働、カネ、限界費用ゼロのプロダクト)を論じます。労働力をレバレッジすることは面倒だと言います。一人で一日1個作れるものは、1000人雇えば1000個作れますね(レバレッジ)。しかし、1000人に働いてくれるように労務管理するのは大変だというわけです。

 一方、メルカリのようなプラットフォームを作ってしまえば、経営者が寝ている間にも利用者がお金を落としてくれます。これこそが、この30年間の勝ち組がやってきたことなのですが、日本人は、働くこと自体に意義を感じますね。大谷選手がゴミを拾うことが美徳なのです。

幸福

 幸福論の方は、仏教的なところもあり、素直に読めるでしょう。

有求皆苦,無求乃樂 

足るを知るということですね。ただ、若干ニュアンスが違いそうなことも。

 若いときに下す大きな決定は、基本的に3つある。「どこに住むか」「誰と恋愛するか」「どんな仕事をするか」だ。

 私たちは誰と恋愛するかを決めるのにほとんど時間をかけない。仕事にとんでもなく長い時間を費やすのに、どの仕事に就くかを決めるのにほとんど時間をかけない。住む場所で人生の軌道がおおかた決まってしまうのに、どの街に住むのかを決めるのにほとんど時間をかけない。

 これも、スッと入ってくるでしょうけど、絶対核家族は、世界200カ国のどこに住むか。どこの人種と恋愛するか。仕事も複数の会社を重ねていって、最終的なキャリアに到達するように考えるはずです。ナヴァル氏もインドに生まれ、アメリカに渡ってきています。

 会社で働く時に考えるべき最重要ポイントは、その会社の出身者と将来どんなネットワークを築けるかだ。その会社に入ったら、どんな人と働くことになるのか、彼らがその後どんな未知に進むのかを考えよう。

  大企業に入る人は、ネットワークを考えるのは定年直前なので、全然、感覚が違いますよね。

 というわけで、本書を日本人が読む時には、文化(家族類型)の違いを理解するのが大事だと思います。この30年日本に欠けていたことが学べるので、時間を使って学ぶ意義はあるでしょう。他にも名言満載なので、ときどき読み返したいと思います。