オランダモデル 長坂寿久 日本経済新聞出版 2000
JETROアムステルダム所長によるオランダ論。オランダが、長期停滞からいかにして脱出したか。労働政策を中心に、労、使、政府が協議して、個別の課題を解決していった様子を活写しています。まずは70年代の様子から。
オランダでは、たしかに70年代まで、稼ぎ手としての夫と、家事をする妻の分業イデオロギーが明確に続いてきた。雇用、給与、社会政策のすべてにおいて、それに合った政策が適用されていた。「既婚女性の給与労働がこれほど冷遇されているのはオランダだけ」と、当時はいわれていたものである。
p.38
75年には、15~64歳の既婚男性の約85%が一家の優位いつの稼ぎ手だったとか。
著者は、オランダ社会の特徴を治水の歴史に求めています。p.69 そもそも、国名がNederland (低地の国)であり、オランダ人は、干拓を通じて、自分の国土を造ってきました。
オランダには、今も12世紀に始まる「ウォーターボード(水域管理局)」という組織がある。ウォーターボードとは堤防を保全し、水位を規定し、管理するための組織である。
p.70
オランダには 国(Rijk),州(provincie),自治体(gemeente)という三層の自治体があります。それらとは別に治水委員会(waterschap)があるんですね。私も先日、Waterschapsbelasting(治水税?)払いました。オランダ語が読めず、水道料金かなと思っていましたが、こんな背景のある「会費」だったのですね。
国民の3分の2が、海面下の土地に住んでいるため、治水に失敗すれば、影響は甚大。徹底的に話し合い、合意に基づいて政策を実行する文化がオランダのバックボーンにあるのだそうです。先日の投稿に通じるところがあります。
そして、オランダは、コントロールの国だと主張します。
「水の制御」が「土地の制御」となり。「規制も制御」するようになったのだ。それが「社会の制御」と「経済の制御」につながり、「感情の制御」にまで及んでいる。
p.74
これは、私も、アムステルダムのベンチャー企業家と話した時に感じたことでもあります。彼は、介護ロボットの使われ方を一枚の図にまとめて、どこに問題があるかを5分で説明してくれました。通常、ベンチャー企業家といえば、画期的な商品(ロボット)や、サービス(Robot as a Service) を声高に主張するものですが、彼は淡々と関係者全体をコントロールする方法を考えていたのです。
著者が、オランダ社会の特徴の2つ目として紹介しているのが、柱状社会(verzuiling) p.75。オランダの宗派別、イデオロギー別に分離した社会のこと。プロテスタントとカトリック、社会民主主義と自由主義、高齢者と若者など、様々なグループが柱のように存在し、その利害調整をエリートが行ってきました。
迫害された人々を受け入れてきた伝統もあって、オランダの移民に対する受容性は高い。p.85
そのひとつの例が著者が指摘する「日本人が日本人であることに自由な社会」
オランダではっそうした非難がましい目を感じないですむ。ほとんどの日本人が住むアムステルフェーン市に住み、日本レストランで食事をし、アムステルダムのホテル・オークラのヘルスクラブへ行き、子供を日本人学校に入れ、日本人たちと付き合いをより多くもっていたとしても、オランダでは誰もアメリカやオーストラリアでのように非難がましくはみないのである。
p.81
オランダの社会問題に対する対処については、第4章。
「問題がなくなることはない」と判断すると、専門家にゆだねて、いかに問題を極小化するかを考える。つまり、問題が拡大し、人々が迷惑したり巻き込まれたりしないよう、いかに制御するかという方法をとる。
p.119
麻薬や売春に対する現実的な対応は、有名ですが、今回のコロナ危機でも、オランダ政府の現実的な対応ぶりを実感しました。コロナもゼロにできないなら、いかに死者を極小化するかを考えるわけです。
オランダでは、この問題解決手法を「ヘドウヘン (gedogen)」という。黙認、寛容という意味である。ヘドウヘンの意味について、オランダ人は、「不法だけど、不法でないこと」と説明してくれる。一種のグレーゾーン政策といえるものだ。
p.120
自分の生活に干渉されず、周囲に迷惑もかけないなら、麻薬の使用を限定的に認める態度ですね。 国交が始まってから400年以上経ちますが、日本がオランダから学ぶことは、いまだに大きいと思っております。
では。