The Perfect Thing: the iPod Shuffles Commerce, Culture, and Coolness
Steven Levy ソフトバンク 2007/4
Newsweekのチーフテクニカル記者によるiPod論。S.ジョブズから絶大な信頼をうけており、音楽に造詣が深いこともあって、9.11以降のアメリカ文化論とも言えるレベルになっています。
iPodの成功要素のひとつに、iTunesのできのよさがあるわけですが、Adobeにホームムービー用のソフトの移植を頼んで断られているんですね p.79。これが、iMovieを自社で開発するきっかけになり、iTunes→iPodにつながることになります。レコード会社を説得できたのも、マックOSのシェアが小さく、警戒されなかったことが一因になっています(p.185)。いかに自社の弱点を克服するかですね。
iPodの広告についても触れています。発売後の4年で2億ドルも使ったんですね。競合メーカーを足した金額の20倍だそうですp.131。金額もさることながら、その手法も、お手本のようなものばかり。クールな商品が、チーム全体のモチベーションをあげています。
ブランドの視点からは、p.120にマイクロソフトのビル・ゲイツ氏と、クールさについてかわした議論が参考になります。ゲイツ氏が、クールさは、市場シェアを獲得した後についてくるとしているのに対し、著者はクールであっても、売れない商品もあるとする。
この感覚は、アーティストにはよくわかるものですが、ビジネス界に長く身を置いている人には、理解しにくいものだと思います。メルセデスのドア音の例が、印象的です。
ドアの音を再現するには、ドアの枠全体が車のシャーシに『同時に』触れなければいけないとわかったらしい。
つまり、ドアの音を作ろうとしたのではなく、ドアの構造を完璧に仕上げた結果、あの音になった。企業は、完璧なものを目指して努力し、加味が微笑みかけてくれるのを待つのですね。iPodのデザイナーも同じ境地でした。
結果的にiPodは10m先からでも一瞬で見分けがつく製品になったけど、僕らはそう作ろうと意図していたわけじゃない。『本当に使える、エレガントでシンプルな製品をデザインしたい』という、より大きな目標に向かって努力した末に、自然にそうなったんだ。p.151
このデザイナーは、S.Jobsのデザインについての知識に感心していますし、そのバックボーンには、禅の精神があるんですよね。禅の生まれた日本で、なぜ、クールな製品を生み出す経営者が現れなくなったのか。考えてみたいと思います。
では。
Amazonの書評を読む