先日の報道に、いまだに納得できないので、タイトルにつられてみることにしました。
まず、オランダが子供の幸福度で1位というのは、このレポートでしょう。
ウェルビーイングを「幸福度」と訳すかはさておき、オランダの学校には、ウェルビーイング担当の教員がいるぐらいなので、首位になるのは驚きません。2010、2013、2020年調査でも1位なのだそうです。
こうした評価を受けるようになった理由を知るうえで重要なのが出生率だ。
オランダでは、1983年に出生率が1.47と低い水準となっていたが、そこから徐々に回復し、2010年には1.79にまで改善していた。
オランダと日本の出生率は、下図のとおりです。
まとめると下表のとおりです。
西暦 | 1983 | 2010 | 2013 | 2020 |
出生率 | 1.47 | 1.79 | 1.68 | 1.54 |
ウェルビーイング | 1位 | 1位 | 1位 |
1983年に過去最低になったオランダの出生率は、たしかに2010年にかけて1.79まで増えました。しかし、その後は1.54まで「下がって」ます。というか、1961年の3.22からみれば、かなり低い状態が続いているというべきでしょう。それでも、ずっとウェルビーイングは1位でした。子供が少ない方が、子供にかけられる時間は増えるわけで、因果関係がよくわかりませんでした。
また、日本の出生率を見ても2015年には1.45まで回復してますね。おそらく人口構造が要因でしょうけど。日本のウェルビーイングランキングが20位(2020年)であることを考えれば、出生率とウェルビーイングの関係はやはり微妙です。
そして、出生率改善について、
背景にあるのが1982年、当時陥っていた大不況からの脱却を目指して労働者団体、企業、政府の3者が協力することを決めたワッセナー合意だ。
いわゆるワークシェアリングです。オランダ社会を変えたできごとではありましたが、40年前の合意です。私が中学生の時のできごとが原因だと言われても、その後あまりにも多くのことが起こって
こうしてオランダは私生活が充実し、子育てがしやすい環境、つまり子どもにとって幸せな国となっていった。
と言われても、私は首をかしげてしまいます。ジャーナリストのコメントは、
「国土が狭く人口密度が高いオランダでは、住宅不足が起きた。住む家がなくキャンプ場で暮らす人がいる一方で、難民は優先的に住宅を得られることなどから、オランダ国内で反移民的な考えが顕著となった」
とのことでした。CBREの住宅販売指数(新築・中古)と住宅価格(新築・中古)を見てみましょう
オランダの「国土が狭く人口密度が高い」のは、ずっと同じです。しかし、住宅販売数は2016年あたりまで順調に伸びてます。価格も安定しています。人口密度と住宅不足は必ずしもリンクしません。
2016年は、ブレクジット国民投票がありました。在英オランダ人が帰国し、ロンドン本社の一部がアムステルダムに来ると知った家主は、その後「貸し惜しみ」をしたわけです。
また、コロナで住宅建設が止まりました。当たり前ですが。
家主の読み通り、オランダへの移民は増えました。下図の正の棒グラフが転入。負の棒グラフが転出。折れ線グラフが純増です。
2022年にウクライナ戦争が起き、転入が400千人になり、限界を迎えたということでしょう。
住む家がない人は、2018年ごろをピークに減っています。
2021年の内訳をみると、オランダ人は38%にしかすぎず、残りは外国からの移民です。半分は欧米以外からの移民なのです。
移民と難民は違いますので、難民も見ておきましょう。下記の数字は申請数なので、家族は含まれていませんが、ピークは、ブレクジット国民投票前の2015年でした。シリアから18千件の申請がありました。ちゃんと、難民を受け入れたオランダは立派だったと思います。
2022年をみても、転入40万人と比べると、主因とは言えないと思います。
ホームレスが難民が家をあてがわれるのを不満に思ったとしても、不満に思ったのは、非西欧から来た移民がそう思ったのでしょう。
最後に、「オランダ国内で反移民的な考えが顕著となった」のか見ましょう。反移民的なアンケートは、見たことがなかったので、オランダの極右政党の議席シェアをみてみましょう。
2006年に、自由党が結成され、2010年に24議席獲得した時には、危機感がありました。しかし、その後10余年は、議席を増やすことにはなっていません。むしろ、オランダ人のバランス感覚が発揮されたように思います。
長々と検証してきましたが、
オランダのルッテ政権崩壊 移民政策巡り内部対立 背景に“世界一子どもが幸せな国”
の後半部分が、残念な分析であることが、わかっていただけたでしょうか。丁寧にデータをみれば、周辺国のわがままに最大限誠実に対応してきたことがわかっていただけるはずです。イギリスはEU出ていくは、シリアで戦争起こるは、プーチンはウクライナに侵攻するは、わがまま放題です。激動する欧州政治の中で、小国ながら、精一杯対応してきました。それでも万策尽きたということでしょう。
2022、日本が難民認定したのはわずか202人です。オランダ与党4党が2対2に割れたというのも、オランダの良心を感じませんか?難民施設がオーバーフローして、社会問題になってもなお、難民を受け入れるべきだという党が与党に2つもあったのですから。